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適当な男

 約束の時間になったが、デアルの姿が見えない。ついでに言うなら、昼間乗ってきたはずの馬もいないのだ。

もしかするとあの適当な男、俺を忘れて置いて帰ったのではないか?

などと考えていると、デアルがやってきた。

「おう、悪いな。シディ先に来てはいたんだがちょっと急用ができてな。」

どうだか。急用?どうもこの男の言うことは信用ならない。

「そんでな。シディ、今日っていうかこっから三日ぐらい帰れなくなったから。」

「そういうことでよろしくな!」

「ニシシッ」デアルはにっこりと笑い明るく言った。

は?この男何を言ってるんだ?

「父さん、なんで?どうして帰れないの?」

「いやーそれがな、馬が盗まれちゃったんだ!」


次の日


まあ流れはこうだ。

予定より早く仕事の終わったデアルは少し早めに約束の場所に向かうと馬がいなかったらしい。

そこで辺りを見渡してみたところ、馬の足跡が途中まであったらしい。

なので衛兵に相談してみるとどうやら最近馬の盗難事件が問題になっているらしいとのことで、

後は衛兵に任せよれば良いだろうとデアルは言っていた。

馬が盗まれたのならば、どうせ毎日来るのだから馬を借りれば良いのでは?と提案したが、

「俺は愛馬にしか乗れねぇんだよ。」とのこと。

なら、馬と呼ばずに名前でもつけてやれと思うが、どうもこの男名前を覚えるのが苦手らしく、

俺のことをシディと呼び始めたのもこいつらしい。シデアなんて覚えてられんとのことだ。

控えめに言って毒親の類だと思う。

馬車という手もあったが馬車は大して早くもないのに金だけはかかるから気に食わないとのこと。

まあ、ということで今は絶賛王都二日目である。宿を一部屋取りデアルと相部屋である。

今日は朝早くから仕事に出ていているため今はいないが、例の如く銅貨二十枚を置いて出て行ったようだ。

机の上に

「今日も銅貨二十枚!女遊びはまだダメだぞ!」

という書き置きと共に置いてあった。

確かに俺は精神年齢で言えばとっくに成人しているがあいつからすれば七歳の息子のはずだ。

このギャグが七歳の子供にウケると思っているのだろうかあの男は。

気を取り直して今日は露店にでも行ってみよう。昨日はできなかった通貨の勉強ついでに軽食でも買おう。




「おっちゃん!りんご一つ!」

ザ異世界感ということでとりあえずりんごを買ってみることにした。

「おう!坊や!おつかいか?偉いな!」

「ううん!街探検してるんだ!」

ここはわざとらしく明るいガキを演じておくぜ。おっさんは無邪気なガキが好きなもんだからな。

「おー、街探検かーそのお供にうちのリンゴを選ぶとはお目が高い。」

果物やの男は子供と遊ぶようにニコニコしながら接客をする。

「銅貨二枚だぜ。」

「はーい!」

リンゴ一個で銅貨二枚か、リンゴの値段もピンキリだがまあせいぜい銅貨一枚八十円前後と言ったところか。

まあ、これからはこっちの通貨を使うことになるのだから日本円で考える必要もないか。

あくまで目安くらいに捉えておこう。

そういえば、デアルによると前々から問題視されていたぐらいなので

馬は二、三日もすれば見つかるだろうとのことだった。というのもこの世界の衛兵というのは

ほとんどが元冒険者であり、優秀な成績を残したものがヘッドハンティングという形で、

衛兵になっているのだという。だからこそ王都は治安が良く安全なのだとか。

そう言われてみると、魔術を学ぶことを危険を孕むものだと反対したシフィリアが王都で

俺が一人で出歩くことを推奨したのも頷ける。

だが、そう考えると俺の父デアルは街どころか王宮で働いているのだから相当な実力者ということになるのだが、

とてもあの適当な男がそんな実力者とは思えん。

「きゃぁああ!」

俺が考え事をしていると後ろの方から悲鳴が聞こえた。

人混みの中をすり抜けるように何かが動いているのが見える。

俺の方へ近づいてくるとフードを深く被った子供が袋を抱えているのがわかったが、

そのまま通り過ぎて行ってしまった。

「スリよぉ!衛兵さん!!捕まえて!」

先ほどの悲鳴の主が子供を捕まえてくれと叫んでいる。

おそらく衛兵が捕まえるのだろうが、この距離なら十分届くだろう。

そう、俺は魔術を人に試してみたかったのだ。ちょうど良い実験台ではないか。

距離は三百メートル前後、速度は子供にしては早い方だ。

よし、岩魔術に雷魔術の射出速度を乗せよう。

俺は腕を伸ばして、人差し指を突き出し銃を構えるような体勢をとった。

「「母なる精よ 怒りの精よ  今一度世界のために 貫くために  従い導け」」

射出速度は最大でいいだろ。

バヒュッという風を切るような音と共にシデアの人差し指から土の塊が飛んで行き、

雷を纏いながら人の間をくぐり抜けて標的の頭へとぶつかった。

すると、バゴッ!!というあまりに大きな音を立てた後に子供は倒れた。

まずいっ。

サイズを本来のものより小さくしたから、想定より速度が出たんだ!!

当たりどころが悪かったら最悪死んでるぞ。やばいやばいやばい。

七歳にして人殺しは勘弁だ生きててくれよ。

俺が焦って倒れた子供の元へと駆け寄るとフードを深く被った

その子は、うずくまって気を失っているようだった。

おいおいおいおい、生きてるよな。頼むぞ。一体どこに当たったんだ。頼むから軽傷であってくれ。

恐る恐るフードをどかして顔をのぞいてみる、

「う、嘘だろ...。」

顔を見るにケガは大したものではなく、少し擦りむいた程度であった。

ただ、その擦り傷のできた顔には見覚えがあった。

フードのなかには黒い綺麗な不揃いの髪と特有の長い耳を持ち、

今は閉じている瞼の先には赤い宝石のような瞳があることが容易に想像できた。

「なんで、君がスリなんて...」

スリをした子供は昨日共に時間を過ごした少女であった。


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