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第八十二話 おまえが憎い

 シャーロットが斬撃を繰り出し、イシュトバーンが蹴りを放つ。

 それらを避けたユウダイへ、俺も剣を振り下ろす。

 ようやく剣がかすり、ヤツの頬から深緑色の血が垂れる。

 さらに俺たちは、手を緩めず追撃していく。


 ついにシャーロットの剣が、ヤツの首へとめり込む。

 血が飛び散り、ユウダイが不快な表情を見せる。


「くっ! 斬り落とせない!」

「何しやがる!」


 シャーロットが蹴り飛ばされ、壁に激突した。

 しかし今度は、イシュトバーンの繰り出した拳がユウダイの顔面を捉えた。


「いてぇじゃねえの」


 そう言いながら放ってきたユウダイの抜き手が、イシュトバーンの腹を貫通した。


「ぐぁあああ!」


 まずい、致命傷だ!

 しかしイシュトバーンは貫かれたまま、ヤツの顔をさらに殴った。

 なんという精神力!


「チッ!」


 ユウダイは面倒くさそうに舌打ちをして、イシュトバーンの腹から手を抜き取る。

 そのままイシュトバーンは蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられた。


 あのシャーロットとイシュトバーンが加勢しているのに、全然倒せる糸口が見つからない。

 しかもシャーロットによってつけられた首の斬り傷が、みるみる再生していく。

 俺の剣もヤツの体を斬りつけるが、やはり致命傷にはならない。


 ユウダイが手のひらを俺に向ける。

 この近距離、速射性の魔法か!


 咄嗟に判断して、魔法が放たれるであろう軌道から体をそらす。しかし逆方向からユウダイの蹴りが飛んできた。

 魔法はフェイントだったのか!

 ギリギリでガードした腕に激痛が走る。

 痛みに耐えているところへ、追い打ちの魔法弾を撃ち込まれた。


 強すぎる!

 ダイキやタクヤとは違いすぎる。


 単純なパワーやスピードだけではない。戦術や身のこなしまでもが洗練されている。

 邪神の力が完全にユウダイの体へ転送され、戦闘スキルまでもが継承されているのか。


 ヤツは追い打ちとばかりに、両手へ魔力を込めていた。

 あの魔力量、倒れたまま受けたら即死だ。


「死ねや!」


 ユウダイが笑みを浮かべる。


 もうダメだと覚悟を決めてしまったそのとき、イシュトバーンの槍がユウダイの背中を貫いた。


「さっきのお返しだ。取っときな!」

「てめぇ……さっき殺したはずだぜ」


 口から血を垂らしたユウダイの首に、シャーロットの剣がめり込む。


「一撃で斬り落とせないなら、何度でも斬る……」


 腹と首に深い傷を負っているはずのユウダイが、痛がる様子も見せずにシャーロットを睨みつける。

 シャーロットが首から剣を抜き、そのまま回転を加えて剣をなぎる。

 その剣は、ガードしたヤツの腕にめり込んだ。

 再生するからだろうが、斬られることになんの躊躇も見せない。


 イシュトバーンとシャーロットがヤツと戦っている間に、セレナが俺のところへ向かって来るのが見えた。


 そうか。

 俺が戦っている間に、シャーロットとイシュトバーンの傷を癒して回っていたのか。


「てめぇ! さっきからチョロチョロとウゼェな!」


 ユウダイがイシュトバーンとシャーロットを、魔法力による衝撃波で吹き飛ばした。そして、セレナへ手のひらを向ける。


 セレナを守らなきゃ……。

 しかし立ち上がろうとするも、力が入らない。

 それでもどうにか立ち上がり、ユウダイ目掛けて魔法弾を放った。

 その魔法弾を、ヤツはハエでも払うかのように弾き飛ばす。


 ついにユウダイの手のひらから、例の極太レーザーが放たれた。

 レーザーはセレナを飲み込み、その直線上にあった壁を破壊する。


「セレナァァァアアアア!」


 俺は叫んだ。

 大事な人を失う恐怖に、耐えきれなかったんだ。


 ユウダイ、俺はおまえが憎い!

 前世でも大事な人を、マリナさんを奪った!

 そしてこの世界でもおまえは、俺から大事な人を奪うというのか。


 悔しさのあまり、床を殴る。


 しかしレーザーの光が薄れていき、二つの影が姿を現す。

 セレナとセレスティアだ。


 魔法防御を全開にして、完全に耐えきったのだ。

 彼女の無事が確認できた瞬間、俺は目から涙が溢れそうになった。


「チッ! 女神の力か……。おめぇ、まじウゼェわ!」


 ユウダイは頭をガリガリ掻いたあと、突然セレナ目掛けて突っ込んでいった。


影の絶対引力(シャドウグラビテ)!」


 ユウダイではなく、セレナに向けて魔法を放った。


「きゃ!」


 重力魔法によって、セレナが俺の側まで引き寄せられる。

 俺はセレナの前に立ち、剣を構えた。


「させない! 二度とおまえに、大事な人を奪わせたりしない!」




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