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第五十六話 復活、闇勇者

「チッ! せっかく仲間にしてやろうと思ったのによぉ」


 ユウダイが天にむかって手を伸ばすと、後ろにいた魔族たちが今にも飛び掛かろうといった感じで構えだした。


「レイさん!」

「ごめん、セレナ。俺、勇者の剣を取られて……申しわけなくて……それで」

「大丈夫です。剣がなくたって、レイさんはレイさんです」


 そうだった。

 セレナは最初から、俺を闇属性や勇者という称号で値踏みなんてしていなかった。

 何度もそれを実感していたのに。


「レイヴァンス!」


 呼ばれて振り返る。

 シャーロットも駆けつけてくれたみたいだ。


「よかった、無事だった。みんなで手分けして探してたの」

「来てもらったばかりで悪いんだけど、魔族とのバトルが始まる直前なんだ」

「あなたと私がいれば、あの程度の軍勢、問題ない」

「俺、勇者の剣を持ってないんだけど」

「そんなものなくても、あなたは強いじゃない」


 そうか。シャーロットだって、いつもそうだったっけ。

 勇者としてではなく、ちゃんと俺を見てくれていた。


 なんだか、自信が湧いてきたよ。


 俺は魔族のほうへと向き直り、臨戦態勢をとった。

 すると空のかなたに、流れ星のような光が見えた。

 その光がぐんぐん近づいてくる。


「な、なんだ?」


 光が俺の目の前に落ちてきて、土煙をあげた。

 煙が晴れると、そこには鞘に収まったままのミスティローズブレイドが地面に突き刺さっていた。


「げぇえええ! なんで? 隠していたはずの勇者の剣が!」


 グリムウィッチが驚きの声をあげる。

 かく言う俺も驚いている。


 俺はミスティローズブレイドを手に取ると、鞘から抜いた。


『お! やっと外かの』


 ミスティローズがいつもどおり、顔だけをニュッと飛び出させる。


「ミスティローズ。俺、一度敵にキミを奪われたんだ。なのに、どうして戻ってきてくれたんだ?」

『ほう、そうなのか。わらわは鞘に納まっている間、こちらの世界を見ることはできぬ。じゃが、もしおぬしの言うとおりであるならば、それはおぬしが勇者の剣の持ち主だからじゃ。おぬしが勇者の心を忘れない限り、どこへいようとも戻ってくる』


 そうか。

 剣を奪われて自暴自棄になっていた俺は、勇者の剣から愛想をつかされていたみたいだな。


 こうしてまた勇者の剣に出会えたのは、俺に勇気をくれたセレナとシャーロットのおかげだ。


「くぅうう! しかし今は三人。いくら勇者といえど、この軍勢を相手にはできまいて」


 グリムウィッチがいやらしい笑みを浮かべながら言った。


「レイヴァンス、無事か!」


 ちょうどそのとき、再び後方から声がした。

 オリヴィアたちだ。

 マックスウェルやカイロス、メリッサにニックもいる。


 これで俺たちのパーティーが全員揃った。


 その様子を見ていたユウダイが、上に伸ばしていた手をおろした。


「んだよ、それ。クソが! おい、グリムウィッチ!」

「へ? へぇ……」

「ここはてめぇに任せた」


 ユウダイは宙に浮き、すごい速さで地面をすべるように、後方へと逃げ去っていった。


「ぐぬぬ、ユウダイめ! 威張り散らしおって! もともと魔族に引き入れてやったのは、このワシだぞ!」


 残されたグリムウィッチが歯ぎしりしている。


 なるほど。

 シナリオ上はハッキリと明かされていなかったが、ゲームでレイヴァンスを闇落ちさせたのもこいつだったんだな。


「レイ、一人でウロウロするなよな。探したぜ、まったく」


 そう言ってマックスウェルが、俺の肩に腕を回してくる。


「勇者の剣が戻ったんだ。これで魔術協会も、一緒に戦ってくれるんだよな」

「ん? 何の話だ?」

「いや、だってほら……。勇者の剣をなくしたから、魔術協会もバックアップをやめるとかなんとか……」


 マックスウェルとカイロスが顔を見合わせて、二人して首をかしげる。


「そのような話は、一切出ていませんが……」

「レイ、おまえ大丈夫か?」


 もしかして、あれも催眠魔法が生んだ幻聴なのか?

 うそ、何それコワ!


「オリヴィアも、俺にがっかりしてたよな。買いかぶりすぎたとも言ってたよな。俺、聞いてたんだ」


 そう尋ねると、オリヴィアは思いっきり眉根を寄せた。

 何言ってるんだ?

 という顔だ。


「オリヴィアはそんなこと言ってない。勇者の剣は持ち主を選ぶ。いずれあなたのもとに返るはずだから。そう言ったけど、あなたはとても落ち込んでいた」


 コワ!

 もしかして宿屋のおやじや町の人々の言葉も、全部幻聴だったんじゃ……。

 洗脳魔法、マジで怖いな。

 そりゃ闇落ち四天王にもなるよ。


「レイさんは、私と私の村を救ってくれました。ここにいるみなさんも、レイさんに助けられました。勇者の剣を奪われたくらいで、レイさんの信頼が揺らいだりしません!」


 セレナが俺の手を両手で包んでくれた。


「せやで。うちらの漁村も救われたわ。あんた、ほんまもんの勇者やで」

「ワシも命を救われたんじゃ。もっと胸張らんかい!」


 メリッサとニックが、俺の背中に温かい平手打ちをかます。


 みんながいなかったら、俺は本当に闇落ちしていただろう。やばい、泣きそうになってきた。


「くぉら! きさまら! ワシを無視して、何を和んでおるか! こうなったら、きさまらまとめて亡き者にしてくれる!」


 あ、そうだった。

 魔族の軍勢が目の前にいたんだっけ。



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