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第三十八話 貴殿こそ、真の勇者

 ネクロクローの黒い影が完全に消え去ったのを見送ってから、レックスは剣に宿る魔力を絶った。

 そして闇と光の力が完全に消えた剣を、鞘に納めた。


「さすがレックスさん。あなたがいなければ、ヤツを倒すことはできませんでした」


 声をかけたが、彼は斜め下に視線を落としたまま、黙っていた。


 四天王の一人と戦ったあとだし、さすがに疲れているだろう。

 それに、はやく彼の傷を手当しなきゃ。


 俺が回復魔法を使えればいいんだけど、闇属性には回復系の魔法がほとんどないんだよね。

 光属性には存在するのになぁ。

 つくづく勇者をやるには不向きな属性だと思うよ、ほんと。


「たぶん、向こうの戦いも終わってるはずです。みんなのところへ戻りましょう」


 再び彼に声をかけてから、元の場所へと向かって足を踏み出した。


「レイヴァンス殿……」


 後ろからレックスに呼びかけられ、足を止めて振り返る。


「なぜ、自分を助けたのです? あれほど貴殿に対してひどいことを言ってきたのに」


 彼は未だに鋭い目で、俺を睨みつけていた。

 闇属性に対する怒りと助けられたことに対する後ろ暗い気持ちで、頭の中が整理できていないのかもしれない。


 俺はまっすぐ向けられた目から視線をそらすことなく、自分の気持ちを素直に伝えることにした。


「嬉しかったんです。あなたがオリヴィアさんと握手を交わしたのを見て。本当に嬉しかった。だから、死なせたくなかったんです」


 もしもレックスが操られてしまっている王の命令で動いていたら、俺たちの敵になっていたかもしれない。

 だけど彼は追われる身になってでも、自分の国を救うために俺たちと戦うことを選んでくれた。


 それに、シナリオではオリヴィアたちが敵になるはずだった。

 そんな彼女とレックスが二人揃って協力しあえるのは、ちょっとした奇跡なのだ。


「自分が貴殿をうとんでいるとしても……ですか?」

「いや、まあ……俺、そういうの慣れてますから」


 できれば仲間として接してほしいけど。

 彼を助けたい気持ちとはまた、別の話だ。


 レックスは目を閉じて、何やら考え込んでいる様子を見せた。


 しばらくして彼が、再び目を開く。

 そして何を思ったのか、敬礼のポーズを取った。


「感情に流されず正しくあり続ける。貴殿こそ、真の勇者です!」

「わ! ちょ、やめてくださいよ! 俺、そんな立派なやつじゃないんですから」


 騎士団の隊長にそんなことされたら、さすがに焦る。

 慌てふためく俺に、レックスは苦笑いしながら敬礼を解いた。


「比べて自分は……。貴殿のことを知りもせず、本当に無礼なことをしました。騎士道にあるまじき行為です」

「そんなことないです。俺だって過去のトラウマに負けて、感情任せに憎んでるやつがいるんです。すべてを割り切れるなんて、それはもう人間じゃなくて仏や仙人じゃないですか」


 ここでレックスが、初めて優しい笑みを浮かべてくれた。


「レイヴァンス殿、改めてお願いします。我らと共に、戦っていただけますでしょうか」


 そう言って彼が、頭を下げてきた。

 相変わらず斜め四十五度の、とてもきれいな姿勢だ。


「もちろんです!」


 俺は右手を差し出した。

 すると彼は頭をあげて、その手を握り返してくれた。

 とても力強い手の感触が、なんとも頼もしい。


 遺跡では交わせなかった握手を交わし、ようやく本当の仲間になれた気がした。



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