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第二十七話 カイロスとの別れ

 やがて俺たちは、ガーディアニア国の国境から一番近い町へとたどり着いた。

 遠く離れた先に、国境の壁がうっすら見える。


 本来ならアンデッド化によって国が操られていたのは、オリヴィアたちの祖国、ナイトブライト国だ。

 しかしこの世界では、ガーディアニア国が操られてしまっているという。


 それにしても、よりによってガーディアニアか。

 アンデッドを正常化する聖水は、聖域の中で生成できるのだけど。

 その聖域があるのはガーディアニアの領土内であり、俺たちはまず国境を越えなければならない。


 なんにしても、旅の疲れを癒したいところだ。

 いろいろと備えも必要だしってことで、領内へ入る前に町で一泊していくことになっていた。


 宿屋に着くと、いかつい顔をした宿屋のおやじが出迎えた。


「あんたら、冒険者かい?」

「まあ、そんなところです」


 宿屋のおやじが、気さくな感じで声をかけてくる。

 ギルドへの登録はしていないから、冒険者とはちょっと違うけど。

 冒険の旅に出ているようなもんだし、説明も面倒だから冒険者ということにしておく。


「ここに来たってことは、ガーディアニアに行きたいってとこか。しかし、今は入れないぞ」

「え? そうなんですか? 困りましたね、みなさん」


 世界の事情も設定も知らないセレナは、本当に困り顔だ。

 実は俺やシャーロットからすると、一応は想定内なんだよね。


 ただ、ちょっと想定と異なる部分もある。


 ゲームのシナリオだと、ガーディアニアはナイトブライト国の侵攻を受けていた。

 それはナイトブライト国の要人たちが魔族に操られていたために起きた戦争だったんだけど。


 そういう状況だったこともあり、ガーディアニアへの入国に制限が設けられてしまったのだ。


 ただそれはシナリオ上の話であって、この世界ではそんな戦争は起きていない。

 想定と違うのはここだ。


「オリヴィアさん。本当にガーディアニアへは入れないんですか?」

「そのようだ。だからこそ、勇者の剣が必要だった。シャーロットによると、ガーディアニアは勇者の信仰も厚いらしいからな。いうなれば勇者の剣は、フリーパスの入国許可証というわけさ」


 それは俺も知っている。


 気になるのは、入国が制限されるような争いは発生していないのに、制限はしっかりされていることだった。

 魔族に操られていることと、何か関係があるのかもしれない。


 考え込んでいたとき、宿の扉が開いて二人の男が入ってきた。

 服装からすると、旅の商人だろうか。


「あ、あなたがたは!」


 ずっと気まずそうにしていたカイロスが、旅人らしき二人を見て声を上げた。


「カイロスさん。知り合いですか?」

「魔術協会の方々だ。内密に来てもらうよう、私から頼んでおいた。魔術師のローブだと目立つので、そのような格好をしているのだろう」


 俺の質問には、オリヴィアが答えた。

 そして彼女は一歩前へ出て、二人と握手を交わした。


「すまない。予定外のことがあって、少々遅くなったのだ」

「いえ、問題ありません」

「二人のこと、どうかよろしく頼む」


 オリヴィアが言う二人とは、カイロスとミラのことか。


「その前に、聞いておかねばならないことがあります」


 いまいち状況が呑み込めないまま、話が進んでいっている気がする。

 魔術協会の二人はオリヴィアと軽く言葉を交わしたあと、カイロスに向き直る。


「カイロス殿。恋人がさらわれたと聞きました。無事に助け出されたとも。この度は災難でしたね」

「は……はい。ご迷惑をおかけしました」


 そうか、ミラを連れたままセレナの護衛を継続するのは難しい。

 だからオリヴィアは、カイロスとミラの迎えをよこすよう魔術協会に連絡していたというわけか。


 連絡ができるタイミングは、セレナの村から一番近い町にいたときだ。

 そんな前から、先を見越して行動していたとは。

 やはり頼りになるな、オリヴィアは。


「ところで」


 ここで魔術協会の男の語気が強くなる。


「なぜ魔族はあなたの恋人をさらったのでしょう。魔族に恋人をさらわれたあと、あなたは魔族と接触しましたか?」


 なんで尋問みたいな言い方をしているんだ?

 恋人が人質にとられたんだぞ。ミラはもとより、カイロスだって被害者なんだ。


 魔族との接触があれば、どんな理由があろうと罰する。そういうことなのか。


「わ……私は……」

「接触なんてあるはずない。だって、ミラさんが魔族に連れ去られるところを俺たちが目撃して、シャーロットがすぐに救出したんだから」


 俺はカイロスの言葉に、かぶせ気味で言った。


 真面目なカイロスのことだから、相手が責め立ててきたら必要以上に罪を告白するだろう。

 というか、ミラを悲しませることはもうするなっての。


「そうです! 人質にとったことをカイロスさんに伝える時間なんて、これっぽっちもありませんでした」


 セレナも俺に合わせてくれている。ナイスフォローだ。


「本当ですか?」


 魔術協会の男が、改めてカイロスに確認してくる。


 罪の意識がぬぐえていないような暗い顔をしているカイロスに、俺は笑顔を向けて見せた。

 セレナもにっこり微笑んでくれている。

 そんな俺とセレナを交互に見やって、ようやく決心したようにカイロスが顔を上げた。


「はい!」


 力強く返答する彼にしばらく鋭い視線を送ったあと、魔術協会の男はため息をついた。


「わかりました。ではカイロス殿。あなたと恋人のミラさんは、我々が保護します」


 どうにもまだ腑に落ちていないようではあったが、とりあえず納得してもらえたようだ。


「レイヴァンスさん、本当にありがとうございます!」

「セレナちゃん、ありがとう!」


 二人は涙を流しながら、俺たちに頭を下げた。

 なんか照れ臭いというか、そんなに礼を言われると恐縮するんだけど。でも本当によかった。


 カイロスとミラはそのあと、シャーロットやオリヴィアにも頭を下げて回った。


「で、俺はどうすりゃいいんすかね」


 蚊帳の外状態になっていたマックスウェルが、場違いな軽い口調で魔術協会の人に尋ねた。そういや、コイツがいたな。


「あなたは引き続き、彼らと同行してください」

「うーっす。ということでカイロスは抜けちゃうけど、俺がしっかりサポートするんで。大船に乗ったつもりで、これからもよろしく」


 サポートねえ。

 こいつ、ほんとに役に立つのかな。


「みなさん。こんなやつですが、魔術の才能は私が保証します。どうか、こき使ってやってください」

「お、いいこと言うね、カイロス君」

「まあ、調子に乗るのがおまえの悪いところだけどな」

「なんだと?」

「だっておまえ、昔からそうじゃないか。そのせいで隙だらけなんだよ。だから睡眠なんて初歩の魔術を食らう羽目になるんだ」

「てめぇ! くそ真面目のくせして、昔っから俺にばっか変な魔術でいたずらしやがって」

「はは、魔術の練習にちょうどいいんだ、おまえは」


 マックスウェルがカイロスの肩に腕を回して首を絞めつつ、二人してじゃれ合っている。


 この二人、実は昔ながらの親友だったんだな。

 そんな裏設定があったとは。

 やっとカイロスの本当の素顔が見れた気がした。

 その向こうでは、ミラとセレナが名残惜しそうに話し込んでいる。


「カイロスとミラを救えて、本当によかったな」


 オリヴィアが俺の肩にポンっと手を乗せた。


「ですね」


 別れ際のみんなを眺めながら、俺はとてもうれしい気持ちで心が満たされていた。



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