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06話 クリスマスイブ

 今日は待ちに待ったクリスマスイブの日。

 子供なら期待に胸を膨らませながら眠りにつく日だ。かくいう僕も興奮してなかなか眠れずにいた。明日になれば枕元にプレゼントが置かれている。そう思ったら目が冴えてしまったのだ。


 この状況を学校の同級生に話したら『小五にもなってまだ信じてるの?』などと言う人も中にはいるだろうけど、僕は少しも恥ずかしいなどとは思わない。それは、幽霊や物の怪の類などが実在しているので、赤い服の人がいてもおかしくないからだ。


(うーん、だめだ。目を閉じていても、なかなか眠れそうにないな。何か眠りにつくいい方法はなかったかな)


 僕は眠りにつくための妙案を模索し、ホットミルクで寝れたと言う友人の話を思い出した。


(そうか! ホットミルクを飲むといいんだった!)


 僕は起き上がり台所へと向かおうと思ったのだが、そこで初めて自身に起きている異変に気づいた。それは、僕の体が動かなかったからだ。


 何か良からぬモノがいるのではないかと思い、薄目を開けて付近の様子をうかがう。しかし、周りには怪奇の類は何もいなかった。何が原因なんだろうと思った矢先に何者かが窓を開けて入る音が聞こえてくる。


 今日限定のあの人が、煙突の代わりに鍵のかかっていたはずの窓を開けて来たのではと、期待に胸を膨らませながら薄目で行く末を見守る。


 やはり、思った通りの人物が僕の横へと歩み寄ってきた。生まれてから一度も会ったことのない赤い服のお爺さんが薄っすらと光りながら、僕の枕元へと何かを置いていく。


 間違いない! 僕の枕元に置かれたのはプレゼントだ!


 そう思ったら、僕の呼吸は興奮のせいか少しだけ荒くなってしまった。寝ていないことがバレるとまずいかもと思い、呼吸を調整しつつ素敵な出会いが過ぎ去っていくのをじっと待つ。


 やがて、光が消えていき僕の体も自由になったので、様子をうかがいながらも、部屋の電気を点けて枕元の品を確認する。そこにはきれいなラッピングが施された四角い何かがあった。


 わくわくしながらも、包装を解いていく。すると、中には一冊のアルバムのようなものが入っていた。僕は首を傾げながらもアルバムを開いていく。


「――動物の写真集?」


 僕のもとに送られてきたのは、どうやら動物の写真集だったらしい。少しだけがっかりしながらも裏表紙を確認する。そこには、『メリークリスマス、よい子の君に私からのプレゼントだよ』というメッセージとともに可愛らしい老人の絵が添えられていた。


 最近動物を育てるゲームをやっていたから、それで動物好きだと勘違いされたのかなと思いながらも再度写真へと目を向ける。


 それにしても、どこかで見たことのある動物も交じってるんだよなと思いながらもページをめくっていく。


「こ……これは……!?」


 僕はある写真に目を奪われてしまった。その写真には、何故か油揚げのコスプレをしている狐と、狐耳と尻尾を付けている綺麗なお姉さんが写っていたのだ。薄手の服を纏っているお姉さんは、右手で狐を抱きしめつつ満面の笑みを浮かべていて、左手で自撮りをしていた。


 僕の鼓動が少しだけ早くなっていく。


 次の写真では油揚げの狐が逃げ出そうと暴れていて、一方でお姉さんはと言うと胸に押し付けながら狐を押さえつけていた。


 僕もこの楽しそうな空間にいたかったなと思いながらもページをめくる。


 お姉さんの服は濡れていて狐は逃げ出していた。どうやら、散乱している油揚げやコップから推測するに暴れた影響で飲み物が胸元にかかってしまったらしい。そして、この写真からは自撮りを止めたらしく、自動撮影で撮られた物のようだった。


 僕の鼓動がギアを上げていく中で、隣の写真へと目を向ける。隣の写真では、お姉さんが胸元に手をかけていて服をどうにかするようだった。その後ろでは油揚げのコスプレが動きづらいせいか、逃げた狐が転んでいた。


 これは、完全に自動撮影のことを忘れているのではないだろうか。僕は次のページに期待を寄せつつ、あとの展開を予測する。


 服が濡れている状況で胸元に手を置く意味とはなんだろう。服を拭くためか、それとも着替えるためだろうか。いや、それなら胸元に手を置くことはしないはず。なら、襟元を前に引っ張るのかもしれない。そうだとすると、次の展開は……。


 僕は真夜中であることを忘れて、唾を飲み込み次のぺージへと進んだ。そこで、僕は驚愕の真実を突きつけられてしまった。写真にうつっていたのは、いつものヘンタイさんで、お姉さんだったものは地面に脱ぎ捨てられていたのだ。


 そして、その下にある写真ではヘンタイさんによって狐がまたしても捕まったいた。


「なんだろう、急に疲れが……。昼間の疲れが今更来たのかな」


 僕は疲れながらも、一つの答えを導き出してしまった。それは、このアルバムの送り主が噂の人ではなく、ヘンタイさんだったと言うことだ。多分今頃は同じように脱皮しているに違いない。


「また今年も本物には会えなかったなぁ」


 僕は脳内から今見てしまったページを破り捨てて、本を机の引き出しへとしまった。もちろん、カギは忘れずにかけておく。


「疲れたし、そろそろ寝ないと」


 僕は誰に言うわけでもなく、一人で呟きながら布団の中へと入る。そして、狐たちと戯れることに思いを馳せながら夢見についていく。



 後日談

 翌朝。僕はいつものヘンタイさんに膝枕をしてもらっている悪夢を見て、起き上がることとなってしまった。

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