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01話 ヘンタイさん

「何度やっても勝てる気がしないよ」


「いやいや、マルが弱いだけだろ」


 僕の家で友人とパズルゲームをしているのだが、何度やっても彼には勝てなかった。でも、それは仕方のないことなのだ。僕と友人とでは腕前に差がありすぎている上に、彼は僕たちが通う小学校で『ゲーム四天王』とまで呼ばれる程の腕前なのだから。


「今度は、協力プレイのやつやらない?」


 いつまでも彼に勝てそうにないので、協力ものを提案してみた。


「協力か。いいぜ」


 彼の返答を聞いてから、FPS系統のパッケージからディスクを取り出し、ゲーム機の中の物と入れ替える。


「それにしても、マルってレトロな物好きだよな。今はフルダイブ型が主流なのに」


「レトロにも良さがあるんだよ。例えば今やってるゲーム機だけど、こうやってお菓子とか食べながら出来るでしょ」


「あー、なるほどな。フルダイブじゃ友達の家に行って菓子を食いながらやるってこと出来ないもんな」


 彼はそう言いながら、皿の上に載っている最後のクッキーを食べた後に、コップに入ったジュースを一気に飲み干した。隣に座っている僕も同様にジュースを一気に飲み干して立ち上がる。


「ジュースのお代わりと追加のお菓子を持ってくるよ。ちょっと待っててね」


「お、サンキューな」


 僕は台所に着くと、お盆をテーブルの上に置いてから冷蔵庫の方を振り向いた。すると、僕の視界には明らかにこの世の者とは思えない手が映りこむ。それは、冷蔵庫の前の床から伸びていた。


 僕は気づかぬ振りをして、冷蔵庫からジュースを取り出しテーブルまで戻る。そして、二つのコップにジュースを注いでいると、手の主がついに床から突き抜けてきて顔を覗かせる。その手の主は、もの言いたげな顔をしている女性だった。


 コップに注ぎ終わり、器にお菓子を追加していると、視界の片隅では女性が徐々に上がってきていた。体が上半身ほど出かけたところで、何故かその全身は勢いよく下へと沈んでいった。


 何事もなかったようにジュースを冷蔵庫に入れなおして、お盆を持って友人の待つ部屋へと戻る。


「お待たせ」


「なあ、さっきから下が騒がしいんだけど何かあったのか?」


 友人は、何か面白いことがあるんじゃないかというような顔をして聞いてきた。


「さあ、どうだろうね」


 僕は素っ気なく返事をした。下の様子を見に行ってみようと言われては困るからだ。


 僕が住んでいるアパートの下――つまり一階にはヘンタイさんが住んでいる。その彼には関わってはいけないのだ。


「気になるなぁ」


 ぶつぶつ言っている友人を受け流し、僕はお盆を床に置こうとした。のだが、置こうとしていた場所から、突如二つの丸い何かが突き出てくる。


 僕は動じずに、本来置こうとしていた場所の横にお盆を置いて座り込む。友人は早速皿の上のお菓子に手をつけ始めていたが、その横では着実にその物体が伸びていた。


 僕も友人に(なら)って菓子を食べていると、ついにその物体の正体が明らかになった。それは、ウサギの耳を頭から生やした先ほどの女性だった。目元にはうっすらと涙を浮かべている。だがしかし、その顔はまたしても勢いよく沈んでしまった。


 僕の鼓動が早くなっていくのを感じる。


「また騒がしくなったな、様子見に行ってみようぜ」


 友人は唐突に立ち上がり声をかけてきた。


 ウサギか……。


 ゴクリと唾を飲み込んだ後に、決心して口を開く。


「そんなに気になるなら仕方ないなぁ。外から様子を見てみようか」


「お、それじゃ早速行こうぜ!」


 友人は速足で外へと向かっていった。その後を追うように僕も外へと向かう。



 外へ出て階段を下りたあと、すぐに僕の家の真下――つまりヘンタイさんがいるであろう部屋の窓までやってきた。


「ここか、一体何をしているんだ?」


 友人が窓に近づいていく。僕は少し離れた場所から中の様子を窺う。


 中にはヘンタイさんだけがいて、涙を流しながらうなだれていた。そして、その傍らにはバニースーツが落ちていた。


「アイツなにやってるんだ?」


 友人は呆れた顔で彼を見ている。


 あれ……なんだろう? もらい泣きかな。


 僕の目から涙が溢れてくる。

 僕は拳をギュッと握り、涙がこぼれない様に空を見上げた。すると、そこには天へと昇っていくウサミミを生やした女性の姿があった。


「えっ!? なんでマルまで泣いてるんだよ?」

初回ということで本日は二本立てでお送り致します。

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