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後始末とその後と


 清水家の別邸から救い出された後。

 経験したことのないことの連続だった日菜子と真理は緊張が途切れ、寝込んでしまった。事情の聞き取りに対応できるようになったのは三日後。


 知らない軍の人たちと、それから研究者たちがやってきて、あれこれと聞いていく。覚えている限りのことを説明し、わからないところはわからないと伝え。


「ちゃんと説明できないなんて、申し訳ないわ」


 藤原の家で療養という形で留まっていた真理は項垂れた。怪異に狙われていたということで、細かく聞かれていたが、心当たりなどあるわけもなく。


「わたしも似たようなものね。とにかく必死だった」

「必死で、異形の口に手を突っ込むの?」

「あの時は最適だと思ったのよ」


 揶揄われて、唇をへの字に曲げる。大体この話を聞いた人は呆れたような目を向けてくる。唯一、目を輝かせたのは三崎ぐらいか。興奮しすぎて、外へ連れ出されていた。


「後始末は大変みたいね」

「三崎さん、この世の終わりのような顔をしていたわね。異形の欠片、どうしても欲しかったみたい」


 最初に果歩とのことを話したとき、喜びに雄叫びを上げ、結果を聞いて絶望の悲鳴を上げた。ただ、三崎の考えた新しい護符はなかなかの効果があった。そのため、今後の討伐に使えないか、検討するらしい。


「彼女、本当に研究が好きなのね。わたしはもうあんな経験はしたくないわ」

「わたしもよ」


 果歩が消えて、色々な調査が清水家に入った。本邸には現在の当主家族が住んでいて、異変はなかった。ただし、果歩の住んでいた別邸は違った。


 行方不明者の死体が別邸からはごろごろと見つかった。把握していた行方不明者以上の数に、絶句したという。行方不明者は怪異に喰われていて、干からびた死体が残されていた。その中には清水家の前当主夫妻、つまり果歩の両親、それから日菜子の異母弟、つまり綾乃の息子が含まれている。


 怪異となってしまった綾乃は人の姿を取り戻したが、やはり精神は壊れており。こちらは研究所預かり。どんなことになるのかは、機密情報だからと知らされなかった。


 小原博一は怪我をしたものの、命に別条はなく。

 ただ、妻と息子を一度に失ったことで、生きる気力がなくなってしまったそうだ。遠縁に当主の座を譲ることになった。

 日菜子は小原と縁を切っているが、新しい当主はわざわざ藤原家まで挨拶に来た。一度も会ったことがない遠縁であったが、日菜子の母である雪子とは交流があったそうだ。表向き穏やかそうだが、とても切れ者のような印象を受けた。


 一度に起きた変化に、日菜子はまだ消化しきれていない。やはり自分の生家のことでもあり、どう受け止めていいかもよくわかっていなかった。


 気が付くと沈み込む日菜子の気持ちを引き上げているのは、真理だった。真理は日菜子が黙り込むと、話題を振る。


「そう言えば、怪異が暴れた場所、封鎖されるそうね。後で見に行ったけども、道はぼこぼこになっているし、垣根は壊れたり、折られていたり、すごかったわ」

「真理は見に行ったの?」


 まだ外に出ていない日菜子は、真理の行動に驚いた。彼女ははけろりとした顔で言う。


「暇だったから。でも、封鎖してどうするのかしら?」

「……藤原家の総力を挙げて浄化をすることになったみたい。一か月と言っていたけど、あんなに穢れていて終わるのかしらね」

「そこは信じてあげて」


 疑問を口にする日菜子に、真理は苦笑した。

 そんな毎日を過ごしていたが、二週間も経てば医師は問題ないと診断した。


「じゃあ、お世話になりました。日菜子、今度はカフェでね」

「ええ。家に帰った後、あまり無理しないで」


 二人はいつものように別れの挨拶をした。


 真理が藤原家からいなくなると、途端に暇になる。日菜子以外はとても忙しく、毎日バタバタしていて朝顔を合わせる程度。


 ぼんやりと縁側に座り、庭を眺めていれば。


「日菜子」


 庭の方から隆臣がやってきた。こちらも随分と草臥れているのか、いつも以上に表情が硬い。ゆっくりと近づき、日菜子の頬に触れた。


「寝込んでいたと聞いていたが、まだ顔色が悪いな」

「隆臣さんの方が倒れそうよ。忙しいのでしょう?」


 伯父から隆臣の忙しさは聞いていたから、特に会いに来なくても気にしていなかった。それでもこうして会えるととても嬉しい。とても久しぶりで、側にいてくれると安心する。甘えるように彼の手に頬を擦りつけた。


「忙しいのはどうしようもないことが分かった。待っていても、変わらないなら適当に抜けることにした」


 隆臣は日菜子の頬から手を離すと、彼女を緩く抱きしめた。どうしたのだろうと、不思議に思いながらもそっと彼の背中に腕を回す。


「どうしたの?」

「色々考えた」


 何を考えたのかよくわからなかったが、とにかく話を聞いた。どうやら毎日会っていたのに怪異の原因追求で会えなくなって、さらに騒動があって。


 ぽつぽつと語る隆臣の言葉に耳を傾けた。ある程度の想いを吐露して、隆臣は抱きしめていた腕を解いた。彼を真正面から見上げる。


「今すぐ結婚しよう」

「え?」

「どうしても何か足りない気持ちになるんだ。披露会は後にして、入籍だけでも急ぎたい」


 驚きすぎて、まじまじと隆臣を見つめた。彼の顔はとても真面目で、冗談で言っているようではないようだ。


「……結婚するにも準備が」

「大体はそろっていたから心配ない」

「そもそも住む家も決まっていなかった気が」


 最大の気になる点を言えば。


「藤原に部屋を貰うか、もしくは朝香の方の別邸に住もう」

「寮はどうするの?」

「引き払う」


 苦手だと言っていた朝香家に住むことも許容できるほど、本気だった。



 隆臣の行動力はすぐに発揮された。手回しはすでにしていたようで、朝香の別邸に住むことになった。流石に書類だけ先に入籍するわけにはいかないと、急いで結婚の手配もされた。元々、近親者のみで行う予定であったため、ごり押しをした。


 結婚の儀式を行う日。

 紅を引き、白無垢を身に纏い。綿帽子を被る。


 花嫁姿で親族の前に立てば。

 正彦も良樹も、雪子に見せたかったと大号泣した。親族たちも、藤原に長く勤めている使用人達も涙で目を潤ませながら、日菜子を送り出す。


 朝香の屋敷に着いて、連れていかれた先には。

 儀礼用の軍服を着た隆臣がいた。


「綺麗だ」

「隆臣さんも素敵です」


 差し出された手に自分の手を乗せ。

 日菜子は隆臣に嫁いだ。



Fin.



最後までお付き合い、ありがとうございました!

誤字脱字報告も、とても助かりました。


初めての世界観のため、色々と不備なところ、悩ましいところもありましたが、とにかく完結できて、ほっとしています。


皆様の善意に感謝を(*´ω`*)

それでは皆様、よいなろうライフを!

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