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縁談拒否されて実家に縁を切られた令嬢、拒否した相手と再び婚約することになりました  作者: あさづき ゆう
第五章 怪異

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怪異の浄化


 隆臣が刀を振り、腕のように動く黒い蔓を根元から切り落とす。切り落とされた瞬間、沢山の靄が噴き出した。すかさず隆臣は浄化の護符を飛ばす。護符は靄と共に光となって消えていく。


「全部の蔓を切り落として浄化!」


 宇根元が指示を飛ばした。隆臣と川口は次々と襲ってくる黒い蔓を立ち向かい、刀を振るいながら神力を込めた護符を放つ。


 三人の手際は鮮やか。三人の無駄のない動きと対照的に、浄化の護符が花弁のように優雅に舞う。瘴気を捕らえた護符は、優しい光で包み込み、静かに消えていく。


 言葉を交わすことなく、彼らは息を合わせて戦う。長い間一緒に討伐をしているからこその信頼なのか。瘴気は次第に浄化され、その威力を弱めていく。吹き飛ばされても、彼らはすぐに体勢を立て直し、躊躇うことなく前進する。致命傷ではない細かな傷を負いながらも、少しも足は止まらない。


「すごい」


 初めて見る討伐の様子に、日菜子は目を逸らすことなく見ていた。

 目の前に立ちはだかるのは、実体化しそうな瘴気、もしくは実体化した存在。バケモノのような姿を持ち、人には到底及ばない強力な殺傷能力。当然、繰り出される攻撃は人を殺すためだ。彼らは少しも恐れず対峙し、確実に浄化をしていく。


 言葉だけではわからなかった現実がそこにあった。


「綺麗、というのは変な表現ですが。想像とは違いますね。もっと血だらけになったり、恐ろしい魔物が溢れかえったりするものだと」

「こうして、討伐を見る機会はないからな。まさかこんな風に護符で浄化をしながら斬っていくとは思っていなかった」


 三崎と修二も目を逸らさずその光景を見つめ、それぞれの思いを口にする。

 藤原の初代当主が作り出したという浄化の護符。美しい思い出を再現したと聞いた時には、理解できなかったが。


 穢れの浄化、そして慰め。

 ただ消し去るだけでない。そこには、優しい祈りが込められている。

 浄化の護符の光に包まれた瘴気は次第に小さくなった。光が完全に消え去ると、その中心には一人の女性が倒れていた。

 ボロボロになった着物、乱れた髪。

 切り傷は見当たらないが、彼女はピクリとも動かない。


「綾乃!」


 博一の声が、静寂を破るように響いた。彼は一目散に飛び出し、痛む体を押して必死に駆け寄る。それでも少しでも早くそばに寄ろうと、必死に駆け寄る。その様子を傍観していた三崎が誰もが思っている疑問を呟いた。


「まさか元の姿に戻れるとは思っていませんでした。でも……生きていますかね? ピクリとも動いていませんが。呼吸しているようにも見えませんし」

「ここからだとあまりわからないな。見たところ、血が見えないから刀傷はなさそうだ。あとは取り込んだ瘴気の量に依存するんじゃないかな。後で残留量を測ってみたいね」

「残留量ですか。瘴気で体が変容していたことを考えると、かなりの量が残っていると思います。今の計器で計測できますかね」


 先ほどとは違う、研究者としての冷静な分析を聞いて、日菜子は居た堪れない気持ちになった。

 決して相容れるような相手ではないが、こうして観察対象として見られる現実に気持ちが苦しくなる。日菜子の拒否する空気を感じたのか、修二が困ったような顔をした。


「えーっと、そのだな」

「お知り合いのようなので、こんな生々しい話、イヤな気持ちかもしれませんが。これは必要なことなのです」


 きっぱりと言い切ったのは三崎だった。彼女は真剣なまなざしで日菜子を見た。興味本位ではなく、今後のための行動。そして、それは未来の平和につながっている。


 頭ではわかっているが、それでも。

 自分の複雑な思いも分かってもらいたいと思ったが、気持ちを伝える言葉が喉に張り付いて出てこない。日菜子は三崎から視線を外し、直接話すことを避けることにした。


 修二たちと目を合わせないように、綾乃へ目を向けた。博一に抱きかかえられた綾乃の目が、ゆっくりと開いた。日菜子と視線が交わる。


「綾乃さん? どうしたの?」


 彼女の名前を呼ぶ日菜子の声は、震えていた。

 力なく腕が上がり、指が日菜子に向けられた。何か言いたそうに口が開く。

 彼女の言葉が効きたいと引き寄せられるように、綾乃へと足を踏み出した。その時、綾乃の側に黒い水たまりが現れ、勢いよく黒い蔓が飛び出してきた。黒い蔓は迷うことなく日菜子の体に巻き付いた。


「きゃあ!」


 あまりに突然の出来事で、逃げることができなかった。気が付いた時には息が苦しいほど締めあげられていた。黒い蔓をほどこうと力を込めて引きはがそうとするが、ピクリともしない。


「日菜子君、今、助ける!」


 茫然として見ていた修二と三崎が我に返り、急いで駆け寄る。二人は叩いたり引っ張ったり、と黒い蔓を引きはがしにかかるが、分裂した黒い蔓に横に払われ、吹き飛ばされてしまった。


「何だあれは! 浄化しきれていなかったのか!」

「日菜子!」


 宇根元の驚愕した声が響き、同時に隆臣の慌てた呼びかけが耳に飛び込んできた。


「くそ、邪魔だ!」


 隆臣が舌打ちしながら、怒りを込めて黒い蔓を薙ぎ払う。隆臣を日菜子に近づけさせないためか、黒い蔓は先ほどよりも早い動きで牽制する。


「浄化の護符を!」


 隆臣の声が、日菜子の耳に届く。護符でその勢いを弱めるつもりなのだろう。日菜子は自分の懐を探った。念のため、と渡されていた護符があるはず。飛びそうになる意識を保ちながら、それでも何とか浄化の護符を掴んだ。


 ありったけの神力を護符に込め、体に巻き付ている黒い蔓に直接押し付ける。神力を得た護符はすぐに輝いた。ぐいぐいと押し付けていた部分だけがどろりと溶ける。

 そのまま溶け落ちてしまえと思ったが、そこまでの威力はなかった。想像していたよりもダメージを与えることができず、日菜子は顔を愕然とする。


「え……うそ」

「日菜子さん! ぼうっとしていないで! 新発明のあれを、その溶けたところに押し込んでください!」

「新発明? ああ、確か」


 三崎に言われて、先ほど受け取った護符の塊を探そうと懐に手を入れようとした。すぐにでも取り出そうとしたが、できなかった。日菜子の抵抗が気に入らなかったのか、黒い蔓がますます日菜子を絞めつけたのだ。


「うっ……」


 余りの苦しさに日菜子は呻いた。締め付けられすぎて、地面から足が浮く。


「日菜子!」


 隆臣は地面を蹴って飛び上がると、黒い蔓に刀を叩きつけた。神力を込めた刀は難なく黒い蔓を切り離した。すかさず川口と宇根元が護符を撒く。


 隆臣は力なくその場に崩れ落ちる日菜子を受け止めた。日菜子は激しく咳込む。そして、体を隆臣に預けた。


「怪我は?」

「大丈夫、息が苦しかっただけ」

「本当に?」

「うん。でも、なんでわたしが狙われたのかしら?」


 隆臣が心配そうに色々と確認してくる。ほんわかとした空気が漂い始めたところで、宇根元が怒鳴った。


「隆臣、下!」


 突然二人を中心として、地面に黒いシミができた。


「まずい」


 隆臣は日菜子を横抱きに持ち上げ、そこから離れようとするが。すでに遅く。

 二人は黒い穴の中に落ちて行った。

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