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縁談拒否されて実家に縁を切られた令嬢、拒否した相手と再び婚約することになりました  作者: あさづき ゆう
第三章 討伐隊と婚約者

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保留になっていた婚約


 辺境の討伐と事後処理が終わり、朝香家の本宅に立ち寄った。久しぶりの本宅は変わった様子はなかったが、あまりにも久しぶり過ぎて他人の家に思える。


 しばらく門扉の所で屋敷を眺めた。呼び出された理由はわからない。だが婚姻終了の手続きをした後、顔を出していないのでちゃんと無事であることを知らせろと言うことなのだろう。


 だが長い間、貴族の生活とは程遠い日々を過ごしていたためか、歴史の重さと優美さを持つこの屋敷は非常に居心地が悪い。


 隆臣がこの本宅で暮らしたのは軍に入隊できるまでの七年ほどで、その後は寮暮らしだ。結婚してからは、前妻の実家に毎日通ったが、仕事を理由に夜泊まることはしなかった。


 さっさと挨拶をして、早めに切り上げよう。恐らく当主である長兄はしばらく泊っていくようにと提案してくるだろう。だが、何と言われても仕事を理由にして断る。


 そう強く心に決めて、玄関をくぐった。


「隆臣さん、ご無事で何よりですわ」

「義姉上。ただいま戻りました」


 女中から連絡を受けた長兄の妻である桜子が玄関先まで出てきた。

 すでに二人の子供を産み、三十を幾つも過ぎているのに、少しも年を感じさせない若々しさ。肩に触れるほどの長さの断髪が余計に彼女を年若く見せる。

 朝香に引き取られた時から知っているせいなのか、彼女は遠慮せずに自分が良かれと思っていることを押し付けてくる。悪い人ではない、そう思ってはいるが、押しの強い彼女を隆臣は非常に苦手にしていた。


「幸義さんは応接室でお待ちですよ」

「わかりました」

「今、案内を」

「大丈夫です」


 桜子の案内を断ると、応接室へと向かった。ノックをするとすぐに入るようにと許可が出る。


 部屋の中に入ると、長兄の幸義は隆臣の顔を見てすぐに満面の笑みを浮かべた。その笑顔は隆臣が来てくれて嬉しいと伝えていた。


 軍服でやってきた隆臣とは違い、幸義は渋緑の着物に同色の羽織姿。

 その姿は隆臣がこの家に来た時からあまり変わらず、十も年の離れた幸義を前にすると、いつまでも子供のような気分になる。厭う気持ちはないが、理由の分からない気まずさはずっと持ち続けていた。


「ただいま戻りました」

「無事に戻ってきてくれて何よりだ。さあ、座って。今、お茶を用意させよう」

「失礼します」

「相変わらず隆臣は硬いな。もう少し、こう、砕けた感じにはできないのか?」


 どこか困ったような、それで揶揄うように言われて、隆臣は感情の乗らない眼差しを幸義に向ける。


「蒼矢兄上のようにですか?」

「蒼矢ほど砕けなくてもいいかな」


 あの子はもう少し礼儀をわきまえてほしいよね、と幸義はこぼす。そんな何でもないやり取りをした後に、隆臣は話題を変えた。


「それで、今日はどのようなご用件ですか?」

「いきなり本題だね」

「用件が済み次第、仕事に戻りますので」


 淡々と答えれば、幸義はため息をついた。


「そんなにも急がなくても泊っていけばいいのに。討伐が終わった後だろう? 申請すれば休みが取れるはずだ」

「さっさと話してください」


 予想通りの反応をする幸義に、隆臣はややきつめの口調で促した。仕方がないと、幸義は重い口を開く。


「用事というのは、隆臣の縁談についてだ」

「縁談ですか?」


 果歩との婚姻終了をしてから一か月。一人になったという実感がようやく感じられたところだった。それなのに、すぐに縁談を勧められるとは。隆臣は表情を険しくした。


 思い出すのは結婚した三年間の生活。果歩とは幼いころからの付き合いがあった。準皇族の姫である傲慢さで、隆臣を常に下に見ていた。そして憐れむのだ。親に捨てられた可哀想な子供だと。


 そういう受け止め方をされることは知っていたので初めは気にならなかったが、あまりにも果歩がそのことを理由にして接してくるので次第に心が拒絶するようになった。そんな中、中央で決めた縁談を潰され、さらには果歩と結婚することになり。


 結婚後はひどかった。どんなに果歩が頑張っても、二人の間には畳一畳分の距離がある。それ以上は彼女は近づけない。そのことに、次第に彼女の精神は不安定になっていった。隆臣が果歩と夜を過ごさないことも影響しているのかもしれないが、泣きわめく彼女と一緒に夜を過ごすのは難しかった。


 過去を振り払うように隆臣は軽く目をつぶった。


 どう説明したら、放っておいてくれるのか頭を悩ませた。神力が合う相手がいないのなら、貴族の義務など発生しない。無理に結婚をしても、果歩と同じことを繰り返すだけだ。あんな意味のない結婚生活をもう一度送るつもりはなかった。


「気が乗らないのはわかるが、相手は小原のお嬢さんなんだ」


 小原、と名前を聞いて唖然とした。果歩の横槍によって潰れた縁談だ。相手も適齢期だったことから、もうすでに別の相手と婚姻しているものだと思っていた。


「……あの話は白紙になったのでは?」

「中央のやつらは保留扱いにしていたんだ」

「まさか」

「本当だとも。最低なことに適齢期のご令嬢を三年も保留だ。しかも、彼女は母親の実家に身を寄せているらしい」


 兄のボヤキに、隆臣は瞬いた。


「母親の実家? どういうことです?」

「これはまだ調べている最中で、理由はよくわかっていない。ただ、小原当主の後妻になった夫人が果歩嬢の側仕えなんだ」


 果歩の名前が出て、隆臣は眉をひそめた。どの側仕えの事だろうかと記憶を探るも、はっきりと顔を思い出せない。


「隆臣の相手が果歩嬢の側仕えの義娘だったのは、たまたまだとは思う。中央からの縁談が保留になったんだ。生家に居づらくて家を出たならいいんだが……」


 幸義はため息をついた。


「とりあえず、お前はご令嬢を待たせている。一度は顔合わせをしてほしい」

「一度は?」


 断ってもいいのかと、言外に滲ませれば、苦笑された。


「相手だってお前と会うのも嫌かもしれないだろう? どちらか一方でも結婚したい気持ちがなければ解消していい」

「それは……。帝は納得するのですか?」

「させるんだよ。そもそも、身内可愛さに道理を捻じ曲げたのは帝だ。同じように神力が合わなかったとかなんとか、いくらでも理由は付けられる」


 先ほどとは違う冷ややかさ。


「……兄上が奏上すると問題ありませんか」

「おや、心配してくれるのか?」


 どこか嬉しそうに微笑まれて、隆臣は顔をひきつらせた。


「あまり無理はしないでください」

「うんうん、お兄ちゃんは頑張るよ」


 なにか違う。


 そう思いつつも、隆臣には上手に捌くことができないのでそれ以上は何も言わなかった。

 すぐに顔合わせをするのだろうと思っていたが、日菜子と見合いをするのはそれから二カ月後だった。

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