第98話 同じ手でも強ければOK
間近に立つソグが一心不乱に剣で切り付けてくる。
風の刃はまともに食らえば穴が開く。
そのため動きを起こりを見逃さず、紙一重で躱し続ける必要があった。
加えて風の刃は剣よりも範囲が広く、回避したと思っても切り裂かれる。
実に面倒な能力と言えよう。
俺は負傷を最小限に抑えて耐える。
傭兵時代の経験により、たとえ満身創痍でも戦えるように鍛えていた。
痛みや出血を意識の外へ追いやり、相手の斬撃や突きを避けることに集中する。
別に難しいことではなかった。
やらねば死ぬのだから全力を尽くすだけだ。
俺は回避を繰り返しながら挑発する。
「銃使いなら近接戦闘で倒せると思ったろ? 俺はそういう馬鹿を何百人と殺してきた」
「ぐっ……」
ソグは苦しげな声を洩らす。
絶え間なく攻撃してくるが、肝心の動きは時間経過によって鈍くなり始めていた。
単なる疲労だけではない。
息切れの具合や顔色の悪さから察するに、猛烈な勢いで魔力を消費しているようだ。
精霊の力を発動し続けるのは、相応の負担になるらしい。
魂を損耗するという話も嘘ではないのだろう。
分析の合間に俺は銃撃を行う。
再装填する暇はないため、予め装備していた銃を次々と使い捨てる。
すべて魔弾にしてから撃ち込んでいるので、ソグの纏う風を貫いて命中していた。
回避を優先しつつも、着実に傷を増やしていく。
不利な消耗戦に怖気づいたのかソグがいきなり叫んだ。
彼は血走った目をして殴りかかってくる。
「早く死ねェッ!」
ガントレットの拳が俺の顔面に当たった。
一瞬だけ仰け反りながらも表情は変えない。
鼻血を出す俺は拳銃を突き付ける。
「痛えな。お前こそくたばれ」
連続で放った魔弾がソグの鎧を貫通する。
その直後、傷穴から植物の枝が生えてきた。
枝は急速に成長して樹木へと変貌しようとしている。
ソグが驚愕しながら吐血した。
「なっ、ゴバ……ッ!?」
「ようやく効果が出てきたな。精霊の魔力が阻害していたのか?」
俺は弾切れの拳銃を捨てながら笑う。
ソグは枝が絡まって倒れており、こちらに何かする余裕はなかった。
口からも枝が伸びて窒息しかけている。
ソグに撃ち込んでいたのは、サズの枝を使った特殊弾だった。
辺境伯を拘束した弾の改良版である。
貫通力をさらに上げていたが、効果が発現するのに時間がかかってしまった。
さらなる改善が必要だが、ひとまず成功したので良しとしよう。




