第94話 戦うギルドマスター
ソグはよろめきながら立つ。
人体が爆散しそうな威力の殴打が直撃したはずだが、まだしっかりと動けるようだ。
鎧の性能が高くなければ即死だったろう。
腹を押さえるソグは、アレックスを指差して怒鳴った。
「何をしている! 早く殺せッ」
呆気に取られていた刺客が我に返ってアレックスへと襲いかかる。
ところが彼らは一瞬で肉片となって四散した。
切断された手足が回転し、大量の血飛沫が床を濡らす。
死体の中心に立つアレックスは、木製の短槍を握っていた。
形状はどちらかと言うと杭に近く、アレックスが持つと短剣のように見える。
貧層な武器だが、それで迫る刺客を薙ぎ払ったのだ。
短槍は付着した血液を吸って脈動する。
あれはサズの枝で作った槍だ。
余った枝を削り出し、先端を尖らせて殺傷力を持たせている。
常人が使っても大した脅威ではないが、怪力のアレックスが振るうことで凄まじい破壊力をもたらす。
「うおおおおおおおぉっ!」
雄叫びを上げるアレックスは木槍を高速で回す。
風を巻き起こしながら、彼はぎらついた殺意を発した。
「ゴルドさんから教わった槍術を見せてやる!」
駆け出したアレックスが木槍を振るう。
豪快な尽きが軌道上の刺客に大穴を開けた。
彼らの四肢が削れるか千切れ飛び、迎撃の矢や魔術を跳ね除ける。
肉塊を量産するアレックスは走り続ける。
余波で壁を抉り、張り巡らされたサズの枝も破損させた。
抗議を示すかのように、天井付近に絡まった死体達が揺れる。
アレックスの槍捌きは拙い。
本当に基礎の基礎しか習っていないようで、とてもこの場で通用する代物ではなかった。
それを身体能力だけで必殺の技術まで昇華させている。
乱戦の最中、木槍は死体を吸って太く強靭になっていた。
だんだんと長さも伸びてアレックスの体躯に見合うところまで成長している。
武器になってもサズの養分吸収の力も健在のようだ。
その特性がアレックスの暴力を後押ししている。
木槍の吸収能力は、本体なら使い手すらも呑みかねない。
しかし、アレックスは持ち前の頑強さで抗って強引に制御している。
油断すれば一瞬で吸い尽くされるというのに、嬉々として使いこなしているのだった。
アレックスは店を粉砕しながら残る刺客を片付けていく。
後でギルドに修理費を請求しなければいけない。
このままだと敷地内が瓦礫の山になりそうだ。




