第87話 暗殺の首謀者
閉店後、俺はリターナとメルを呼んで会議を始めた。
丸テーブルを囲み、それぞれに酒を渡して料理も用意する。
今日だけはリターナの鎖を外して、首吊り状態ではなくなっていた。
酒を飲んだ俺は単刀直入に宣言する。
「色々と埒が明かない。親玉をぶっ殺すぞ」
俺の言葉に反応したのはリターナだった。
優雅に微笑む彼女は、小首を傾げて問いかけてくる。
「それは隣国の王を狙うということかな」
「違う。この侵攻の責任者だ。ノエルによると、立案と実行を担う奴がいるらしい」
俺はノエルから渡されていた資料を取り出した。
そこには手書きで男の顔が描かれていた。
半開きの目をした眠たそうな顔の男だ。
資料の下には詳細な情報も記載されている。
「統括騎士ソグ・ナハス。国境防衛を任された男だ」
二人に資料を見せて読ませる。
興味深そうなメルがすぐに挙手をした。
「統括騎士って何ですか」
「向こうの国で特別な権限を渡された役職らしい。分野によっては身分が上の貴族にも命令を下せるそうだ」
「すごそうです」
「実際にすごいと思うぞ。そんな特権階級を許されるほど優秀な人間ってわけだ。只者じゃない」
逆に言えば、正規の軍として扱うのが困難な者でもある。
そこで専用の役職を設けて、どうにか制御しようとしているのだ。
今度はリターナが質問をする。
「統括騎士のソグとやらは、一体どんな権限を持っているのだね」
「国外からの防衛行為において、あいつはあらゆる反撃を許されている。国を守るためなら何をしたっていいわけだ」
「しかし今回は隣国の侵攻から始まっているよ。防衛行為からは外れているのではないかな」
「そういう細かいことは後からどうとでもなる。結果さえ出せば、国の上層部も文句は言わない」
迷宮のある街を支配すれば、もたらされる利益は想像を絶する。
少々の暴走も黙認できるどころか、むしろよくやったと褒め称えるくらいだろう。
上層部からすれば、失敗しても部下の独断だと言い訳して責任から逃れることもできる。
たぶん統括騎士はそういった事態も想定して設立されたのだと思われる。
「統括騎士ソグは、ギアレスを奪い取って王国領土から切り離すつもりだ。その後の防衛も特権で手段を選ばず押し通すつもりだろう」
「大量の暗殺者を差し向けてくるような男なら、別に何をしても不思議ではないね」
「そういうことだ。だから俺達は首謀者のソグを始末しなければいけない」
標的は定まった。
あとはこいつをどうおびき寄せるかだ。
明日、ノエルと相談して段取りを進めていくつもりだ。




