第8話 重い腰を上げた奴は大抵強い
冒険者の被害を見かねたメルが挙手をする。
「私がやっつけますか」
「いや、今回は俺がいこう」
俺の料理でこうなったのだから、多少は責任もある。
このままでは客を射殺しただけの人間になってしまう。
別に店の評判なんてそこまで気にしないが、たまには動くべきだろう。
俺は拳銃を掴み取る。
装弾数六発の回転式で、一般的に流通している代物だ。
特別な仕掛けはないものの、頑丈かつ動作不良が少ないことで有名である。
故に信頼できるのだ。
最近は便利な銃も開発されているが、余計な機能よりも確実性を優先している。
厨房から出た途端、さっそく枝が襲いかかってきた。
俺は軌道を見切って紙一重で躱す。
避けきれない分は銃撃で粉砕し、空いた手で弾を装填しながら歩いて進む。
魔物とは言え、所詮は植物なので動きは単調だ。
人体を貫通する威力さえ対処できれば、あとはどうとでもなる。
個人的な感想を述べるなら、冒険者達が次々と死んでいることが不思議だった。
どうしてもっと堅実な立ち回りができないのか。
本格的な訓練経験がないにしても、たとえば回避術や防御術を集中して学べばいい。
この程度の魔物に苦戦しているようでは、迷宮探索もままならないだろう。
(空いた時間に戦闘指導でもするか? いや、面倒だな……)
考えているうちに、樹木の根幹部分に辿り着く。
枝は騒ぐ冒険者達に反応し、すぐそばの俺には最低限の攻撃しか飛んでこない。
養分の吸収を最優先する習性により、獲物の数が多い箇所を狙うようだ。
至近距離から突き刺しにくる枝を銃撃で捌きつつ、俺は樹木に埋まった冒険者に注目する。
生命力を吸い尽くされたのか、皮と骨しか残っていないような有様だった。
干からびすぎて元の人相が分からなくなっている。
俺は冒険者の胸元を掴み、衣服を引き剥がす。
痩せ細った胴体とは裏腹に、心臓が皮膚が大きく波打つほどの鼓動を繰り返していた。
「すまんね、俺の料理が悪かった」
冒険者は死んでいる。
しかし、寄生した樹木は心臓を核として利用していた。
俺は弾丸を撃ち込んで心臓を破壊する。
暴れていた樹木が唐突に停止し、それきり大人しくなった。
核を失ったことで、生物に襲いかかるだけの力を失ったのだ。
まだ生きているようだが、とどめを刺す必要もない。
俺は空薬莢を捨てながら呟く。
「ちょうど観葉植物が欲しかったんだよな」
次の瞬間、冒険者から拍手喝采が巻き起こった。
彼らは強さに憧れる。
目の前で俺が戦いを見せつけたことで、すっかり心酔してしまったようだ。
その後、店内に散らばった樹木の魔物の枝を冒険者に集めさせると、揚げ物の仕込みを始めた。
食中毒の大変さは思い知ったので、念入りに加熱してから盛大に振る舞う。
冒険者達は絶賛しながら美味そうに揚げ物を食らった。
樹木の寄生や暴走はもう起こらなかった。