第72話 適材適所と言えば何でも許されるわけではない
今日も俺はゴブリン肉を調理をする。
まだまだ大量に余っているので贅沢に使っても問題ない。
そもそも材料が材料だから贅沢もクソもなかった。
客も飽きつつあるため、なるべく早めに消費し切りたいのが本音である。
給仕を担当するメルは、身軽な動きで仕事をこなしていた。
大量に注文が舞い込んでも落ち着いて対応しており、特に心配する点はない。
冒険者達の間ではその強さも知れ渡っているため、不埒な考えをする者も皆無だ。
馬鹿な真似をして命を落としたくないと思うのは当然の発想だろう。
サズは店内全域に根を張って掃除と片付けを行っている。
その仕事ぶりは意外と丁寧で、細々とした面倒な部分をまとめて引き受けてくれるのは非常にありがたい。
最初の暴走以来、歯向かってくることも一切なかった。
伸ばした枝で埋める形で店の補修も担っており、もはや不可欠な存在となっている。
首吊り状態のリターナは、冒険者に薬の説明をしている。
迷宮探索に役立つ物を売り込んでいるようだ。
彼女の知識は堪能で、嘘や誤魔化しは決して使わない。
医者としての腕も良く、時間がある時は治療行為も受け付けている。
ただし気を抜くと人体実験をしかねないため、可能な範疇で見張っている。
屋内訓練場では、ゴルドが遺品の売買をしている。
不気味な外見と胡散臭い喋り方は、既に認知されたことで受け入れられていた。
それどころか彼の扱う商品は質が高いと評判で、積極的に利用する者は少なくない。
戦闘訓練も実施しており、冒険者の生存率に多少なりとも貢献している。
そして現在、蝙蝠になった辺境伯が天井付近を飛び回っていた。
たまに客と談話する光景は、すっかり店に馴染んでいる。
俺は小さく嘆息する。
辺境伯との対決から二週間ほどが経過していた。
あの蝙蝠の分体は弱い。
本来の身体能力は引き継がれておらず、子供にも負けるような力しかない。
空気中の魔力を吸収できるので半ば不死身に近いそうだが、別に大した脅威ではなかった。
おまけに本体から大きく離れられないらしく、行動範囲はほぼ店内に限られる。
辺境伯は本体の救出を諦めており、俺との同棲生活を満喫していた。
その態度は完全に開き直っている。
近頃は料理の味見や、組み合わせる酒の提案までしてくる始末だ。
元が大貴族なだけあって、辺境伯はかなりの美食家らしく、その指摘は的確で否定できないものばかりだった。
素直に従うのは癪だが、彼女の意見を取り入れたことで店の評判は上がっている。




