第7話 揚げればだいたいなんでも食える説
メルが俺を見つめてくる。
無表情だが若干の非難が込められているような気がした。
案の定、彼女は撃ち殺された死体を指差して注意してくる。
「お客さんを殺しちゃだめですよ」
「緊急事態だ。そういう時もあるさ」
俺は煙草をくわえて言う。
火を点けようとした瞬間、メルがナイフを一閃させた。
先端だけが切り落とされて床に転がる。
「料理中の煙草も禁止です」
「大丈夫だ。これも緊急事態だから」
「意味不明です」
「大人になりゃ分かる」
下らないやり取りをする間も店内は大騒ぎだった。
何人もの冒険者が樹木の餌食となって宙吊りになっている。
メルはナイフを回しながら俺に問う。
「止めなくていいんですか」
「客が自力でなんとかすると思ったが、ちょっと無理そうだな。想像以上に厄介な魔物らしい」
ついには厨房にも枝が伸びてきた。
メルは両手に持ったナイフで素早く切断していく。
枝は人体を貫くほどの威力だが、彼女の技量を上回れないらしく、次々と刻まれて破片が散るばかりだった。
その後ろで無防備に立つ俺には何の被害もない。
俺は切り飛ばされた枝の先端を拾い、その断面に注目する。
「ふむ」
樹液が滲み出していた。
軽く指で触れると、魔力を吸われたのですぐに離す。
これが樹木の魔物の性質だ。
魔力も生命力も似たようなもので、とにかく獲物の力を奪うのである。
防御系統の魔術も吸収対象になるため、防ぎ続けるのは難しい。
メルのように物理に任せた手段が最適だろう。
切断した枝でも、養分が十分なら樹木に成長し得る。
炒め物にしても体内で活性化したことから、少々の加熱では死なないようだ。
とりあえず吸収の性質が失われるまで調理しなければならない。
俺は近くにあった枝の破片を集めると、厨房でいくつかの料理方法を試してみることにした。
メルがいるので身の安全は確保されている。
おかげで気ままに挑戦することができた。
結果、揚げ物にすると安全な料理になることが判明した。
じっくりと芯まで熱を通せば、直に触れても魔力を吸収されない。
炒め物の時は加熱時間が足りなかったのだろう。
検証を終えた俺は、出来上がった揚げ物を長机に並べていく。
「後で冷凍とか燻製も試したいな」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ。店内が大変です」
メルに指摘されて気付く。
店内の冒険者は全滅寸前だった。
興味本位で覗こうとした外の通行人にも犠牲が出ているようだ。
既に騒ぎは知れ渡っているらしい。
このままでは店ごと燃やされかねない。
さすがにそれは困る。
財産も含めてすべてここに保管しているのだ。
それらを守るため、早急に樹木の魔物を黙らせる必要があった。