第61話 喫茶店の定義から逸脱した何か
数週間後、第三騎士団長ダウスは店の地下一階でホットミルクを飲んでいた。
落ち着きない目は室内の様子を窺っている。
慌ただしく給仕をするのは臨時で雇った騎士達だ。
一階にいるメルよりも要領が悪いが、それでも十人ほどいるので注文を上手く回している。
四方を囲う鋼鉄製の壁に窓はない。
ここは地中だから当たり前だ。
店の奥にはいくつかの扉があり、そのうち一つは迷宮の奥へと続いている。
元はゴブリンの出てきた穴だった場所だ。
現在は堅牢に施錠されており、さらには騎士と冒険者が共同で駆逐したので安全地帯となっている。
ゴブリンは付近の巣を諦めて別の階層に逃げたそうだ。
(概ね順調だな)
大規模な改築により、店は地下二階まである巨大な建物になった。
元が地上二階までだったので、単純な広さは倍増している。
地上一階と地下一階は接客に使い、地下二階は結界と氷魔術による冷凍機能を持たせた保存庫にした。
これで山のように運び込まれるゴブリンの死骸を腐らされることはなくなった。
困ったら保存庫に放り込めばいいだけだ。
既に数十匹分のゴブリンが氷漬けになっており、しばらくは食材を買い足さなくてもいいような状態になっている。
以降は必要に応じて設備を付け足す予定だ。
欲しい設備なんていくらでも出てくるため、区切りを付けなければ延々と続いてしまう。
資金だって無尽蔵にあるわけじゃない。
今回だけでも豪勢に使っているのだ。
しっかりと営業して設ける必要があった。
働く部下を横目に、ダウスは小声で愚痴る。
「いくら大金を払うからって、騎士をこき使うもんじゃねえぞ……」
「嫌なら断れよ」
「まあそうなんだが、この街の支部は貧乏でな。まとまった報酬はありがたいんだ」
第三騎士団が万年金欠なのはよく聞く話である。
人員が多いために出費が重なり、割の良い仕事は第二騎士団に奪われてしまう。
現在は第二騎士団が解体されたので多少は改善されたろうが、余裕のある暮らしができるほどではなかった。
騎士達が迷宮に潜り、どうにか稼ぎを捻出していることは知っている。
こうした店の給仕でも安定して金が貰える時点で貴重なのだ。
俺は出来立てのスープをダウスに差し出した。
「ほら、俺の奢りだ」
「……また人肉か」
「今回はゴブリンの肉を入れてある。味はそこまで悪くない」
ダウスは何度か躊躇した後、恐る恐るスープに口を付ける。
それから少し微妙そうな、だが安堵した表情を見せた。
別に絶賛するほどではないものの、吐き出すような味でもない。
それがここ最近の総評であった。
ダウスは文句を言わずにスープを飲み干した。




