第52話 騎士の目的
リターナ肉とクズ野菜のスープを煮込んでいると、筋骨隆々な大男が店にやってきた。
逆立った赤髪を持つその男は、鈍色の使い込まれた鎧を着ている。
掠れて消えかかっているが、胸元には王国騎士団を示す紋章があしらわれていた。
武器は漆黒のハルバードで、肩に担ぐ形で所持している。
何気ないように見える扱い方だが、瞬時に振り下ろしへと移行できる構えだった。
赤髪の騎士は大股で店内を進むと、カウンターに手をついて話しかけてきた。
「あんたが魔弾使いの店長だな」
「ああ、そうだ。殺し合いなら休憩時間まで待ってくれないか。今は忙しくて手が離せない」
俺は鍋をかき混ぜながら応じる。
片手は厨房に設置した散弾銃を掴んでいた。
こいつがハルバードを叩き込んでくるまでに、少なくとも二回は発砲できるだろう。
ルシアとの一件で、騎士団とは浅からぬ因縁が出来上がっている。
気を抜けるはずがなかった。
俺の臨戦態勢を感じたらしく、騎士は大げさに手を振って苦笑する。
「用はあるが争う気はねえよ。時間ができるまで待つから温かいミルクをくれ」
そう言って騎士は大人しくカウンター席に座り、店内の様子を眺め始めた。
脇にハルバードを立てかけて呑気にミルクを待っている。
こちらを油断させるための演技ではないようだった。
本当に争うつもりはないらしい。
メルが騎士を一瞥してからナイフを握る。
「どうしますか。排除しますか」
「殺気は感じられない。放っておいていいだろ」
「了解です」
その後、客足が緩やかになったところで休憩に入った。
大皿の料理はたっぷりと用意しており、すぐに追加を要することはないだろう。
俺は厨房越しに騎士の前に立つ。
「待たせたな」
「いいや、大丈夫さ。いきなり押しかけたのはこっちだ。むしろ問答無用で撃たれなかったことに安堵してるくらいだぜ。報告書では相当な危険人物だと説明されていたからな」
気楽そうに語る騎士は、意味深な目で視線を返してくる。
彼は手を叩いてから本題に入った。
「察しの通り、俺は王国所属の騎士だ。この前、お前に殺されまくった奴らの同僚だな」
「報復に来たのか」
「争う気はないと言っただろ。銃を向けないでくれ」
暫し沈黙した後、俺は隠し持った散弾銃を置く。
騎士は苦笑いしてから補足説明をする。
「同僚と言っても、あいつらは第二騎士団で、俺は第三騎士団だ。母体は一緒だがそんなに仲が良いわけじゃない。いがみ合ってる時の方が多いくらいじゃねえかな」
「早く要件を言え。こっちは長話に付きやってやるほど暇じゃない」
俺が促すと、騎士は豪快な動作で頭を下げた。
彼はその姿勢のまま言葉を続ける。
「今日は第三騎士団の団長として正式に謝罪をしに来た。迷惑をかけて本当にすまなかった」




