第44話 なぜか日常が戻ってくる
騎士団との一件から数日が経過した。
店は変わらず繁盛している。
戦闘で壊れた箇所は即席で修繕を行っており、とりあえず営業に支障がない状態にしておいた。
特に大変だったのは血や臓物の臭いの除去だ。
自力ではどうにも落とし切れなかったので、仕方なく業者を呼ぶ羽目になった。
金はかかったものの、現在は気にならないほどになっている。
血の染みだけはしっかりと残っているため、破損した内装も相まって物々しい印象を受ける。
この店の持ち味ということにしておこうと思う。
そんなことより騎士団だ。
派遣された人間の大半が俺達に殺されたが、彼らはギアレスを拠点に生活している。
本来の任務である迷宮探索へも出向かず、目立たないように過ごしているという。
噂では王都からの増援を待っているらしい。
彼らにはどういった処分が下されるのだろう。
独断で迷宮とは無関係の店に攻撃を仕掛けて、為す術もなく壊滅したのだ。
騎士団の評判を著しく落としており、責任問題に発展するのは必至であった。
法が通用しないギアレスでもそれは同様で、王都直轄の面子を潰しているのも大きい。
今後、この街で騎士団が活動するのに不自由するのは間違いなかった。
故に責任問題なのだ。
まあ、俺達の知ったことではなかった。
連中が自滅しただけである。
これからまた仕掛けてくることがあれば、その時は徹底的に叩き潰してやろう。
最終的には王国との戦争になるかもしれない。
俺はただ喫茶店をやりたいだけなのに、世の中は上手くいかないものだ。
内心で愚痴りつつも、調理の手は休めない。
給仕で動き回るメルの代わりに完成した料理を並べるのは樹木の魔物だった。
枝を器用に伸ばして配膳や掃除を並行して行っている。
これまでの功績を踏まえて、樹木の魔物に名前を付けることにした。
今は客から候補を募集している。
採用された者には無料食事券を渡す約束なので、冒険者達は真剣に考え込んでいた。
ある程度の案が集まったら締め切って決めようと思う。
屋内訓練場では、騎士の遺品を売っている。
相場と比べると格安だろう。
必要な物を貰った残りで、冒険者達への実質的なサービスだ。
それなりに人気らしく、酒よりも遺品目当てでやってくる者も少なくない。
騎士団の採用する装備なので全体的に質が良いのである。
放っておけばすぐに売り切れるだろう。




