第40話 迷宮喫茶店のおもてなし
間を置かずに追加の騎士団が突入してきた。
彼らは魔術の乱射による牽制を行う。
数に任せた攻撃密度で圧倒するつもりらしい。
妥当だが堅実な作戦である。
さすがに正面からぶつかるのは厳しい。
そう判断した俺は厨房の陰に身を隠した。
叩き込まれる術が店内を容赦なく破壊していく。
「くそったれ、絶対に改築費用を奪ってやるからな」
俺は恨みを口にしながら撃ち返す。
高速で放たれた魔弾が数人の顔面をぶち抜いた。
しかし向こうの勢いは止まらず、入口付近を占拠されてしまった。
騎士達は明らかに犠牲を度外視して行動している。
上司からしっかりと脅されているのだろう。
この程度の損害では効かないようである。
騎士達はテーブルを倒して遮蔽物にすると、結界を張って陣地を構築した。
一部の騎士は銃を携えて、魔術が途切れる瞬間に撃ち込んでくる。
なかなか上手い連携だ。
おかげで反撃がしづらい。
迂闊に顔を出せば殺されそうだった。
(喫茶店に持ち込む武装じゃねえよな)
騎士達の攻撃を見て、俺はため息を洩らす。
彼らは徐々に前進してくる。
このまま俺達を店の奥まで追いやるつもりなのだろう。
俺達はいつまでも撃ち合いができるわけではない。
どこかで必ず弾が尽きる。
騎士団は物量作戦で押し切りたいようだ。
やや劣勢な状況だが、俺が動揺することはない。
このまま大人しくするつもりはないからだ。
奴らの練る作戦など想定内である。
当然、対策も考えていた。
俺は天井に潜むメルに目配せした。
彼女は小さく頷くと、無音で落下して騎士達に襲いかかる。
縦横無尽に振り回されるナイフが、精密な動きで命を奪っていく。
刃が首を切り裂き、心臓を貫き、目を抉り、喉を穿つ。
メルの暗殺術は冴え渡り、目視困難な連撃と化していた。
彼女を狙った魔術や銃撃は、壁や天井に炸裂するばかりで意味を為さない。
高すぎる機動力に追いついていなかった。
俺も援護射撃を見舞って混乱を助長しにかかる。
やがてメルは素早く店の奥へと退避した。
再び気配を殺し、ひっそりと移動して奇襲の機会を待つ。
一撃離脱で騎士達の注意を引くのが彼女の役目だった。
目論み通り、騎士達はやたらと慎重に動き始める。
メルの襲来を恐れているため、大胆な攻勢に出られずにいた。
積み重なった味方の死体に怯えているのもある。
いくら叱咤されても殺し合いの恐怖は拭えないものだ。
店内は膠着状態に陥った。




