第37話 団体様は事前予約してください
カウンター席で中年の冒険者がちびちびと安酒を飲んでいる。
どこか哀愁の漂う雰囲気で齧るのはスケルトンの素揚げだ。
肘と肋骨が特に美味いらしいが、俺にはよく分からない。
冒険者は思い出したように話しかけてくる。
「そういや店長、きな臭い噂を聞いたぜ」
「何だ」
「王国騎士団がこの店を狙ってるんだってよ」
俺は鍋のスープを混ぜながら笑う。
今朝から何度となく振られている話題だった。
「そりゃそうだろ。一人殺して、もう一人も重傷だからな。報復が無い方が不自然だ」
「いや、やりすぎだろ……」
「向こうから仕掛けてきた以上、容赦はしない。ギアレスの常識だろ」
「……まあ、うん。店長らしくていいと思うぜ」
冒険者はどこか呆れた様子で頷いた。
反論したいものの、どこから言うべきか迷っているのだろう。
それから咳払いをして話を進める。
「騎士団はこの店を迷宮の一部と見なして討伐作戦を組んでるらしい」
「いくら隣でも無理があるだろ」
「それを押し通せるのがお貴族様ってことさ。店長、あんたとんでもない人物を敵に回してるぜ?」
冒険者の口ぶりには心配も含まれていた。
かなりの騒ぎになっているので無視できなかったのだろう。
だからこうして渦中の店まで来ているわけだ。
酒を飲み干した冒険者は、神妙な表情で切り出す。
「ここで負けた女騎士がいただろ? あの女は実は……」
「話すな。興味ない。どうせ殺す相手だ」
「こ、殺すってそれは」
戸惑う冒険者の言葉を遮るように、壁の一部が破裂した。
飛び込んできたのは一本の矢だ。
矢は俺のすぐそばに突き立って止まる。
魔力で強化されたらしく、かなりの貫通力だった。
そこから数十本の矢が室内に降り注ぐ。
冒険者達はすぐさま防御するが、何人か反応が遅れて負傷した。
死者はいないがひどい有様である。
「噂をすれば来たな」
ここからは見えないが、外が騒然としている。
騎士団がやってきたようだ。
思っていたより早いのは、それだけ恨まれているということだろう。
俺は嘆息して鍋に蓋をすると、店内の客に呼びかけた。
「巻き込まれたなくない奴は今すぐ出ろ。勘定は机に置いて行けよ。食い逃げは殺す」
冒険者達は慌ただしく店から出て行った。
メルは素早い動きで代金を回収して俺のもとまで運んでくる。
残念ながら今日は臨時休業だ。
迷惑な団体客をもてなさなくてはならない。




