第34話 貴族キャラは噛ませになりがち
女騎士は上品な雰囲気を纏っている。
見るからに上流階級の人間だ。
金色の髪はよく手入れされており、顔には化粧も施していた。
自信に満ちた表情からは、気品と高慢さが窺える。
腰には立派な剣を差している。
そこらにあるような安物ではなく、造りのしっかりした業物だ。
おそらくは魔術的な効果を付与している。
この剣だけで一財産になるような価値があるだろう。
女は部下を引き連れていた。
天井に頭が触れそうなほど大柄な男だ。
分厚い鎧に身を包み、背中には赤黒い戦斧を吊るしている。
兜のせいで顔はよく見えないが、厳めしい目つきが室内を観察している。
屈強な魔物とも真っ向勝負ができそうな風貌だった。
馬鹿騒ぎしていた酔っ払いが静まり返り、慎重に入口から距離を置く。
どいつも厄介な相手とは関わりたくないのだ。
絡んではいけない人間の見分けが付かないと長生きはできない。
どこか張り詰めた空気の中、女騎士は再び発言する。
「強い魔弾使いとはどなたのことかしら」
呼びかけを聞いた客達が一斉にこちらを向いた。
俺は舌打ちしたい気分になる。
このまま無視するつもりだったというのに。
女騎士と大男は俺の前まで歩いてくる。
「貴方、名前は?」
「……グレン。ここの店主だ」
俺は目を合わせずに応じる。
調理を進める手は止めず、淡々とした態度を心がけた。
女騎士は特に機嫌を損ねた様子もなく名乗る。
「わたくしはルシア。王国騎士団に所属しておりますわ」
その場で一礼した女騎士ルシアは、柔らかな笑みを浮かべた。
俺はこの状況に悪態を吐きそうになる。
(この立ち振る舞い……貴族の令嬢ってところか)
どうにも厄介な予感がする。
できればすぐにでも追い出したいが、簡単にはいかないだろう。
色々と流れを考えなくてはならない。
俺が思案していると、ルシアが本題を切り出してくる。
「魔弾使いのグレン。騎士団による迷宮探索への協力を要請します」
「断る」
反射的に出たのは拒絶の言葉だった。
早計だったかもしれないが、まあ仕方ない。
最初の段階ではっきり言うべきだろう。
どうせ承諾する気はないのだから。
「えっ……なん……」
ルシアは呆然としていた。
どうやら断られると思っていなかったらしく、想定外の事態に言葉を失っている。
それを見た客の冒険者達は小声で言い合う。
「店長すげぇな……騎士が相手でもこれかよ」
「堂々としてるっていうか、思い切りが良すぎるぜ」
「ああいう態度って罰せられねぇのかな」
だいぶ好き勝手に言われている。
顔は憶えたから、殴るのは後でいい。
まずは目の前の問題をなんとか解決しようと思う。




