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迷宮喫茶はじめました ~退職して店を建てたら隣にダンジョンが発生したけど気にせず営業する~  作者: 結城 からく


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第30話 たらい回しの対戦相手

 アレックスがこちらを向いた。

 彼は大股で近付いてくる。


「リターナさんじゃないですか!」


 威圧感のある接近にもリターナは動じない。

 撃ち込まれた弾丸を吐き出しながら朗らかに挨拶する。


「やあ、アレックス君。調子はどうかな」


「おかげさまでよく眠れています! 元気も出て健康になれました!」


 元気とか健康どころじゃないが、果たして本人は理解しているのか。

 爛々と輝く双眸は、以前までの面影を打ち消す迫力を持つ。

 ついでに声もうるさい。

 握手できそうな距離で発する大きさではなかった。


 リターナは悲しそうに肩をすくめる。


「君に新しい薬を用意したのだけど、店長に止められてしまったよ。実に残念だ」


「なぜですか!?」


「文句なら自分の身体を見てから言えよ。とんでもないことになってるぞ」


 詰め寄ってくるアレックスに指摘する。

 彼は不思議そうな表情になった後、ぎらついた笑顔を浮かべた。


「少し筋肉が付いて男らしくなりましたね! あと姿勢が良くなりました!」


「終わりだ、脳まで筋肉になってやがる」


 リターナ製の安眠剤に思考力を破壊されているようだ。

 建設的な会話はできそうにない。

 近々、冒険者ギルドから苦情が出るのではないだろうか。

 そうなった場合、弁明は難しそうである。


 俺の心配をよそに、アレックスは熱気を感じさせる勢いで頼み込んでくる。


「店長さん! よければ僕にも戦闘指導をしてもらえませんか! ギルドマスターとして、冒険者の皆さんの気持ちを知りたいんです!」


「他にも戦いたい奴がいるだろ。そいつらに頼めよ」


「店長さんが一番強いと聞きました! だからご指導をお願いしたいです!」


 面倒すぎる。

 こんな筋肉の怪物とは戦いたくない。

 別にやれないことはないが、普通に嫌だ。

 そんなことに労力を割きたくないのが本音である。


 どうしたものかと思っていると、冒険者達に紛れるメルを発見した。


「俺の代わりにメルはどうだ」


「指名されたのは店長です。私はこっちで他の人の指導があります」


 メルは冒険者に隠れながら言う。

 あいつ、逃げやがった。

 好戦的なメルでも、豹変したアレックスとは戦いたくないらしい。

 それはなんというか、色々な感情が入り混じった複雑な意志であった。

 メルなら難なくアレックスを解体できるだろうが、それを実行するわけにもいかない。


 迷った末、俺はリターナの脛を蹴った。


「お前が行ってこいよ」


「おや、自分を解放していいのかな」


「あれの責任を取らせたいだけだ」


 俺がそう言って鎖を離すと、リターナは苦笑した。

 彼女は息を吐いて前に進み出る。


「よし、たまには運動しようかな。首吊り生活は身体が鈍るからね。アレックス君、まずは自分に付き合ってくれるかな」


「ぜひぜひ! 光栄です、よろしくお願いします!」


 満面の笑みのまま、アレックスはリターナに掴みかかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 俺の中でのアレックスくんは凄いパワーボムを放ちそうw ^^
[良い点] 第30部分到達、お疲れ様です! >面倒すぎる。 >こんな筋肉の怪物とは戦いたくない。 >別にやれないことはないが、普通に嫌だ。 >そんなことに労力を割きたくないのが本音である。 >「俺…
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