第28話 また一歩、喫茶店から遠のいた
戦闘指導が面倒になってきた。
毎日のように冒険者が頼み込んでくるのだ。
それに対応しながら、店の経営もしなくてはならない。
噂が広がって繁盛するのは悪くないが、ここまで忙しいと嫌気が差すのも仕方あるまい。
しつこい連中を撃ち殺したい衝動に駆られつつも、寸前で堪えた俺を褒めてほしいくらいだった。
そもそも、店の中で指導するにも限界がある。
実戦形式で教えてほしいという声も少なくない。
こちらがいくら言っても治まる気配がなかったので、俺は戦闘指導を本格的な事業として始めることにした。
半端な形で実施するよりも、ルールを決めて進める方が上手く回るはずだ。
それと単純に需要の高さを知ったので、どうせなら儲けてみようと考えたのである。
まず俺は店の隣の廃屋を買い取った。
迷宮とは反対側に建つその廃屋は、元は何かの店だったらしい。
俺は大工に頼み、こっちの店と無理やり繋げて一つの建造物に仕立て上げた。
訓練中の流れ弾が店に飛んでこないように内部を結界で補強すれば、屋内訓練場の完成である。
まだ調度品の類はなく、瓦礫と廃材が散乱しているが、まあ使っていくうちに片付ければいいだろう。
とにかく訓練できる広さが確保できていればいい。
足元が散らかっているのも実戦に則した環境という風に捉えられる。
屋内訓練場の開放にしたがって、店の営業日時にも変更を加えることにした。
週に一度は早めに閉めて、そこで戦闘指導を実施する。
いつでも酒を飲みたい連中はは反対されたが、訓練場で殴り合いの喧嘩大会をやると発表すると手のひらを返しやがった。
優勝者には賞品を渡すと伝えたのも大きいだろう。
冒険者は基本的に馬鹿騒ぎするのが好きなのだ。
だからこういった催しには食い付く。
ギルドにも訓練場はあるが、やりすぎると規約違反になるからな。
俺の店ならその点の心配もなく、賭け試合なんかも自由にやれてしまう。
冒険者の新たな娯楽となるのは当然の摂理であった。
訓練場は有料だが、店で何か頼めば無料で使えることにした。
これで店の売り上げにも繋げられる。
冒険者をさらに呼び込めそうだ。
そろそろメルや樹木の魔物だけでは人手が足りないので、追加の従業員を雇うべきかもしれない。
ただ、こんな店で働きたい奴がいるのかは疑問である。
命の保証はできないので頑丈だと助かる。
ギルドに頼めば、そういった人材を派遣してくれないだろうか。
困ったら頼んでみようと思う。




