第26話 魔弾の傭兵
剣士は接近と同時に魔力による身体強化を発動した。
効果をロングソードにも浸透させたのは、切れ味を底上げするためだろう。
あれなら人体など簡単に両断できる。
一撃必殺でこちらを叩き潰すつもりのようだ。
俺は距離を詰められる前に発砲した。
弾は剣士の右膝に命中するも、甲高い音が鳴って弾かれる。
全力の身体強化によって、銃撃を無理やり防いだのだ。
消耗は大きいが、銃使いを完封するには最適な手法であった。
短期決戦なら問題もない。
俺を絶望させてから勝つつもりらしい。
「死ねェッ!」
剣士がロングソードを振り下ろしてくる。
俺は上体を反らして躱すと、至近距離から銃撃を見舞う。
二連射は剣士の両肩を貫通した。
少量の血が滴り、ロングソードの切っ先が床板に突き刺さる。
剣士は腕をだらりと垂らし、苦痛に顔を歪めていた。
その目は驚愕を示している。
「くそ……よりによって"魔弾"かよ」
魔弾とは、身体強化を銃弾に付与する技だ。
身体強化の一種だが、習得難度が高さから別物として扱われることが多い。
これを使いこなせるようになれば、銃使いとして一人前だと見なされる。
逆に魔弾さえ使えない者は才能か努力が足りない。
他の武器に転向すべきという話になる。
傭兵稼業で暮らしてきた俺は、当然ながら魔弾の使い手である。
相手の身体強化をぶち抜けなければ話にならないのだ。
こういった接近戦だって何度も経験している。
剣士は間合いを詰めて身体強化で攻めれば勝てると思ったのだろう。
しかしその考えは甘すぎる。
面倒な殺し合いは嫌いだが、たまには昔の感覚を思い出そうではないか。
両肩を負傷した剣士は、力任せにロングソードを振り回す。
痛みを堪える斬撃は精彩を欠くも、十分な殺傷力を持っている。
俺が避けるたびに、軌道上の床や机が次々と切り裂かれていった。
見物する客達は迷惑そうに退避している。
「後で弁償しろよ」
回避の合間に撃ち込む弾は、剣士の四肢を穿つ。
向こうはロングソードで防御を試みるが、俺もそれを見越して狙っている。
貫通力を上げた魔弾は、的確に剣士の機動力を奪っていた。
俺が左右の拳銃を撃ち尽くす頃には、剣士は全身が血みどろだった。
あちこちに銃痕ができて満身創痍である。
未だに死んでいないのは俺が致命傷を意図的に外しているからだ。
対する俺は息を切らさず立っている。
猪みたいに突っ込んでくる奴の相手をするのは大した労力じゃない。
動きは読みやすく反撃も容易だ。
魔弾による消耗も微々たるもので、気にするほどでもなかった。
「誰が雑魚だって? はっきり言ってみろよ」
軽く挑発してみても、剣士は言い返す余裕もなかった。




