第25話 エアプする奴はだいたい弱い
俺は調理の手を止める。
包丁を置いて、睨んでくる冒険者に話しかけた。
「何だ。随分と威勢が良いじゃないか」
「口だけの銃使いが講釈を垂れてるもんでな。気になっちまったのさ」
腰かける男は剣士のようだ。
皮と金属の鎧を装備し、武器はロングソードを所持している。
年齢は三十代くらいか。
鍛え上げられた肉体は戦士としての経験を物語っていた。
見たところ中堅……いや、それより少し上か。
それなりの強さを持つ冒険者らしい。
顔に見覚えがないので、ギアレスに来たばかりの新参者だろう。
剣士は俺を指差して断言する。
「客を撃ち殺す店主がいると聞いた。お前のことだろ」
「まあそうだな。間違ってない」
実際に何度か射殺しているのだから否定しようがなかった。
常連客も納得した様子で頷いている。
なんとなく癪に障る反応だったので、そいつらにはゴブリン料理を提供しようと思う。
剣士は椅子から立ち上がって語る。
「俺は銃使いが嫌いなんだ。遠距離から攻撃してくる卑怯者で、弾が切れたら何もできない雑魚ばかりだ。弓や魔術の才能がないから銃に甘えやがる。冒険者の恥と言っていいだろう!」
「悪口はやめろよ。お前さん、睨まれてるぜ」
一部の冒険者が殺気立っていた。
どいつも銃使いである。
剣士の罵倒が許せなかったようだ。
彼らは今にも発砲しそうな雰囲気だが、剣士が怯むことはない。
それどころか下卑た笑みで挑発を重ねてみせる。
「上等だ。文句がある奴は出て来い。まとめて叩き斬ってやるよ!」
「床が汚れるからやめろ。誰が掃除すると思ってんだ」
一触即発の空気の中、俺は待ったをかける。
メルが「掃除するのは私です」と言っているがここは聞き流した。
俺は剣士の前に進み出ながら宣言する。
「特別に相手をしてやる。負けたら二度と店に来るなよ」
「ハッ、いいぜ。大恥かかせてやる」
やり取りを聞いた冒険者達がにわかに盛り上がる。
彼らは好き勝手に喋り出した。
「へえ、店長が戦うのか!」
「どっちに賭ける?」
「店長に決まってんだろ!」
「じゃあ俺は剣士に賭けるぜっ!」
すっかり俺達の対決は娯楽となってしまった。
まあこうなることは予想できていた。
どいつも戦いが大好物なのだ。
それが目の前で始まるとなれば、当然のように観戦を楽しもうとする。
追加の酒を注いで準備万端な者ばかりであった。
俺は両手に拳銃を持って確認する。
「一方が死ぬか降参するまで終わらない。それでいいか」
「問題ねえよ。そっちは大丈夫なのか。後悔しても遅いぞ」
「お前みたいな奴を入店させたのは後悔だな」
挑発を返した瞬間、剣士の顔が真っ赤に染まる。
そして、猛然とした勢いで斬りかかってきた。




