第24話 銃は剣より強いとは限らない
今日も今日とてメルの戦闘指導が行われていた。
店内の少し開けた場所でナイフの扱いについて説明している。
意外と理論的な内容が多く、冒険者達はすっかり生徒のような様子で教えを受けていた。
そろそろ混み始める時間なので仕事に戻ってほしいものだ。
指導風景を見守るリターナは感心したように頷く。
「メル君は良い腕を持っているね。容姿も端麗だし人気なのも納得だよ。人望があるのは羨ましいなぁ」
「お前も何か教えるか」
「自分はこれといった戦闘技能を持たない。組み技くらいはできるけど、それも不死身の特性を活かしたものさ」
「殴られたり刺されながらも、強引に掴みかかるわけだ」
「その通り。相手を心理的に怯ませることもできるから便利だよ」
リターナはなぜか誇らしげに笑う。
彼女の再生能力なら、そういった荒業も可能なのだろう。
致命傷でも止められないという点は厄介かもしれない。
話を聞いていた客の一人が俺に話しかけてきた。
「店長は戦闘指導を受けてないのか?」
「やらねえよ。面倒臭い」
「おいおい、即答だな。あんたの動きを学びたいって奴は多いんだぜ」
「へえ、物好きもいるもんだ」
メルがいるのだから十分だろう。
銃よりナイフの扱いを覚えるべきだ。
使い勝手がまるで違う。
そもそも俺は我流なので参考にされても困る。
ところが、客の男は期待の眼差しを俺に向けている。
酒の肴にしたいというわけだ。
仕方がないので少しだけ乗ってやることにした。
「銃使いが生き残る秘訣を一つ教えてやろう」
「おお!」
「他の武器で強くなれ。以上」
それだけ述べた後、俺は食材を切り分ける作業に移る。
男は残念そうに抗議してきた。
「おいおい、そりゃねえだろ」
「銃は扱いが難しい。身体強化を習得して剣で斬りかかる方が手っ取り早い。悩んで相談するくらいならすぐに転向すべきだ」
まず手入れが煩わしい。
しかしそれを怠ると動作不良を起こす恐れがある。
戦うたびに弾を消費するため、他の武器に比べて金もかかる。
そもそも銃は高級品なのだ。
まともな性能の物を調達するだけで苦労する。
対人戦はともかく、魔物との戦いでも不利を強いられる場面は多い。
弾の威力不足で外皮や甲殻を貫けないことがあるのだ。
特に迷宮では適切な間合いを取るのも難しく、魔物と鉢合わせた時が辛い。
銃使いの冒険者が嬲り殺しにされるのは珍しい話でもなかった。
事情を聞いた男は顰め面で唸る。
「やっぱ銃使いって難しいんだな……」
「才能があれば大成できるが、世の中そこまで甘くない。結局は地道に鍛練を重ねて――」
「まったくよぉ! 偉そうにしやがる野郎もいたもんだぜ!」
店内に下品な大声が響き渡る。
それはどうやら俺に向けられた言葉らしい。
端のテーブルに座る一人の冒険者が、挑発的な笑みを浮かべてこちらを睨んでいた。




