第23話 喫茶店とは何なのか分からなくなってきた
店の経営は順調だ。
売上は伸び続けており、客も途絶える気配がない。
迷宮で死んだ奴はもう来ないが、その分だけ新規参入の冒険者が増える。
最近では店が狭くなってきたので改築しようか考えているほどだ。
今の儲けに満足できなくなってきたら、街の大工に依頼するつもりである。
冒険者ギルドとの関係も良好と言えよう。
各種消耗品を割安で融通してもらい、代わりに樹木の魔物の枝やリターナ製の薬を提供している。
互いにサービスしているので損益で言うとあまり意味はないが、ギルドとの結び付きがあるのは悪くない。
そんな感じで良き隣人といった関係性であった。
噂によるとギルドマスターのアレックスは絶好調らしい。
慢性的な疲れが吹き飛び、誰よりも元気に働いているそうだ。
安眠剤が大活躍しているのは言うまでもない。
あれからアレックスは店に顔を出していないが、近いうちにやってくるだろう。
今のところ致命的な副作用は見つかっていないのが幸いである。
元凶のリターナは次に渡す薬を既に選定し終えていた。
どのような効能があるかは聞いていない。
知ったところで止める気はないからだ。
アレックスが実験体として弄ばれる運命は確定している。
彼には強く生きてほしいものだ。
他に店の変化で言うと、メルを師事する冒険者が増えたことだろうか。
彼女のナイフ捌きに惚れ込んだ連中が、戦闘術の教えを請うようになったのである。
指導料も非常に安く、ナイフ使いはもちろん他の武器を扱う者からも好評だった。
メルはこの店の給仕で用心棒も兼ねている。
経歴は不明だがたぶん斥候とか暗殺の訓練を受けており、総合的な戦闘能力はずば抜けて高い。
きっと単独でも迷宮の深部まで潜れるのではないか。
少なくとも店内にいる客が束になっても敵わないのは確かだろう。
その実力は冒険者達の間でも有名で、彼女に不埒な真似を働こうとする者はいない。
馬鹿なことをした奴は肉塊になるまで切り刻まれた挙句、人食い共の腹へと直行することになる。
だから冒険者達の間では暗黙のルールとして「店長とメルさんを怒らせない」という文言があるらしい。
俺が同列で扱われている点だけが不満だった。
まあ、それはどうでもいいとして。
店内に客が少ない時間帯なんかは、メルによる指導が実施されていた。
ナイフの持ち方から攻撃方法まで丁寧に教え込まれている。
これで冒険者の生存率が少しでも上がるのだろうか。
常連客が死ぬと売り上げに影響しかねないので、どうにか頑張ってほしいものである。




