第20話 身の丈に合わない仕事は断った方がいい
アレックスはリターナの存在に困惑するも、咳払いで気を紛らわせた。
そして話題を元の流れへと戻す。
「このたびは救助支援の謝礼を持ってきました。どうぞお受け取り下さい」
「ちょうどよかった。そろそろ請求するつもりだった」
渡されたのは金貨の詰まった革袋だ。
それなりの額が入っており、文句を言うほどではない。
単純な報酬に加えて迷惑料の意味合いも兼ねているのだろう。
金貨を数えていると、アレックスが遠慮がちに言う。
「これは提案なのですが、よければギルドと業務提携を結びませんか。お互いに冒険者を支援する立場ですし、今後は支援金を出すことが――」
「断る。組織に関わるのは面倒だし、こんな店と組んだらギルドの悪評が上がりかねない」
俺は樹木の魔物とリターナを指差して述べる。
アレックスは何も反論できなかった。
店の異常性については肯定するしかないからだ。
いくらギアレス支部といっても、冒険者ギルドが正式に提携すべき相手ではなかった。
「俺達は勝手にやる。そっちも勝手にしろ」
「わ、分かりました……すみません」
アレックスは深々と頭を下げた。
すると見かねたリターナが口を出してくる。
「まったく、店長は言い方が厳しいね。すっかり落ち込んでしまったじゃないか」
「大丈夫です。僕が無理なお願いをしただけですから」
「そんなことはないさ。君の提案は建設的で一考の余地がある。相手が悪かっただけだよ」
リターナは穏やかな口調でアレックスを慰める。
彼女が首吊り状態でなければ正論と認めたい言葉だった。
「せっかくだから少し休んでいくといい。ギルドマスターは多忙と聞いているからね。たまには息抜きするのも大事だと思うよ」
「……いいのですか?」
「席は空いているから好きにしろ」
「ありがとうございます。少し休息を取ったらすぐに出て行きますので……」
それからアレックスはカウンター席に座ると、ぽつぽつと愚痴を語り始めた。
主に仕事の量や重圧に関することだ。
ギルドマスターへの抜擢は大出世だが、本人的には望まない人事だったらしい。
目立たず平穏な人生を送るのが夢なのだという。
話し相手になっているのは主にリターナだ。
俺は客の料理と酒を用意するので忙しく、メルも給仕として働いている。
吊られた彼女だけがちょうど暇なのだ。
最初は水だけを飲んでいたアレックスだが、リターナに勧められたことで酒を飲んでいる。
しかも既に六杯目である。
ちなみに酒は店の奢りだった。
謝礼を多めに貰っているので、これくらいは構わないだろう。
赤ら顔のアレックスは、エール入りのジョッキを持ったまま日頃の不満を垂れていた。
「皆さん、僕に無理難題を振ってくるんですよぉ……辛くても立場的に弱音を吐けないですし、本当に仕事を辞めたくて……」
「それは大変だね。君は頑張りすぎている。無理は禁物だよ」
「リターナさん……」
アレックスは泣きそうな顔でリターナを見上げる。
その瞳からは当初の不信感が消え去り、親しみや尊敬の念が込められていた。
すっかりリターナに懐いてしまったらしい。
この未熟なギルドマスターは、少なくとも人を見る目がないようだ。




