第13話 厄介な客を叩き潰す
俺は無言で弾の再装填をする。
その横でリターナが饒舌に反省をしていた。
「ふむ、眼球が急所になるのは仕方ないにしろ、簡単に怯むのは良くないね。鎮痛作用が十分ではなかったようだ。痛覚を麻痺させれば解決できるけど、その場合は……」
夢中になっていたリターナだが、俺とメルを見て黙る。
彼女は興奮した様子で称賛の言葉を畳みかけてきた。
「君達の戦いぶりは素晴らしかった! 相当な腕利きみたいだね。ぜひ今度、親睦を深めるついでに身体検査を」
「断る」
食い気味に返した俺は銃を発砲する。
弾はリターナの胸を貫通した。
彼女は呆けた顔で後ろに倒れ、傷穴から血を流す。
俺は銃を向けながら冷淡に告げた。
「実験なら地獄でやってろよ」
引き金に力を込める。
リターナの顔面が破裂し、脳の破片が床に散った。
弾は眉間を突き抜けていた。
目を見開いた表情のまま、リターナは沈黙する。
俺は死体を軽く蹴って呟く。
「こいつも養分にするか」
「私が運びます」
「ああ、頼む」
メルが死体の腕を掴もうとした時だった。
リターナの指がぴくりと動き、彼女が目が俺を見る。
「驚いた。躊躇なく撃ってくれたね。おかげで脳味噌が吹き飛んでしまった」
瞬時に飛び退いたメルはナイフを構えて警戒する。
俺は銃を下ろさず注視する。
そんな中、リターナは呑気に立ち上がった。
彼女は眉間の穴を撫でて微笑んでいる。
俺は当然の疑問を投げかけた。
「どうして生きている」
「私は不死の妙薬を飲んでいるからね。試作品だから完璧な効能じゃないが、これくらいで死ぬことはないのさ」
嬉しそうに語るリターナの傷が徐々に再生していく。
俺は彼女に向けて発砲した。
弾丸がリターナの首や胴体に命中する。
ところが、少し仰け反っただけで出血もすぐに止まる。
リターナは不思議そうに首を傾げた。
「なぜ撃つんだい。弾の無駄遣いだよ」
「得意げな顔がむかついた。不死身なんだから気にすんな」
俺はそう言いながらリターナを掴み倒し、その手足を無造作にへし折った。
不死の力を持っていても、素の身体能力は貧弱らしい。
そもそもリターナから抵抗の意思を感じられない。
俺は身動きの取れない彼女を樹木に投げ付けた。
枝が集まって上手く受け止めるも、そこから絡め取ろうとしない。
それどころかリターナを転がして距離を取る始末だった。
「どうした。早く吸い取れよ」
「私の血肉は薬漬けの猛毒だからね。養分にはできないと悟ったのだと思うよ」
「そいつは残念だ」
冷静に解析するリターナの首を踏み砕く。
折れた手足が何度か痙攣し、元の向きに戻ろうとする。
放っておくと再生してしまうようだ。
仕方ないので無理やり捩じって折れたままにしつつ、体重をかけて固定する。
常人なら泣き叫ぶほどの激痛だが、リターナはトロールに関する分析を再開している。
自らの状態など気にも留めていなかった。
俺はひとまずメルに指示を出す。
「動きを封じる方法を探すか。とりあえずロープを持ってきてくれ」
「了解です」
メルが店内の物置へと急ぐ。
俺はそばに落ちていたリターナの鞄を一瞥する。
中にはよく分からない薬液入りの瓶と調合道具が入っていた。
針の先端を浸しただけの量でトロールを生み出すのだから、他の薬品も危険な代物ばかりだろう。
俺は鞄を掲げると、空気と化した客の冒険者に呼びかけた。
「戦利品だ。早い者勝ちで譲るぞ」
冒険者達は一斉に首を振って拒否した。




