第102話 メイズジャンキー
色々と疲れていそうなノエルだったが、ほどなくして落ち着いた。
いちいち引きずっていては心身が持たないのだろう。
彼は室内の様子を見渡して感心する。
「それにしても、あの損壊から短期間でよく営業再開できましたね」
「意外とどうにかなるもんさ。荒事には慣れている」
倒壊寸前まで荒れ果てた店は、なんとか復活を果たしていた。
サズの枝が全体へと巡って骨組となり、そこに廃材を打ち付ける形で修繕を行った。
たった一日の突貫工事だが店の体裁を保てる程度には不便がない。
見た目は廃墟同然ではあるものの、ある意味ではこの店らしいと言えよう。
ちなみに建て直しは面倒なので保留にしている。
営業ができているうちは別に構わないだろう。
俺はノエルの前にグラスを置く。
そこに淡い水色の液体をなみなみと注いだ。
ボトルの栓を戻しながらノエルを促す。
「飲んでくれ」
「これは……お酒ですか?」
「ああ、地下の壁から湧いたやつだ。迷宮酒と呼んでいる。仕組みは分からないが、これで酒の仕入れにも困らなくなった」
俺の説明を聞いたノエルは険しい顔をする。
疑念を隠そうともせず、彼は恐る恐る訊いてきた。
「飲んで大丈夫なんですかね……」
「知らねえよ。腹を壊したら教えてくれ」
「や、やっぱり遠慮しておきます」
辞退したノエルに酒を飲ませようとしていると、冒険者の一団が店にやってきた。
定期的に利用する常連客だ。
リーダーの男が気さくに声をかけてくる。
「店長! がっつり稼いできたぜ! 魔物肉も差し入れだ!」
「おう、助かる。迷宮酒はどうする」
「もちろん全員分だぁ! 今夜はいっぱり飲むぜ」
メルが人数分の迷宮酒を運んでいく。
ソグの攻撃で戦闘不能になった彼女だが、もう働けるほどに回復していた。
言うまでもなくリターナも再生し、怪しげな薬の販売をしている。
アレックスとゴルドは街で暴れすぎたせいで捕まっているが、数日後には釈放されることが決定していた。
そういうわけで、今回の戦いにおける犠牲は実質的に無かった。
説得に負けたノエルが迷宮酒を飲もうとしているので、俺はこっそりと補足説明を挟む。
「今のところ症状と言えば、迷宮に潜りたくて堪らなくなるくらいだな。住みたくなる奴もいるらしい。迷宮中毒って奴かね」
「やっぱり危ない成分が入ってるじゃないですか! 駄目ですよ!」
「別にいいだろ。冒険者がやる気になってるんだ。気前が良くなれば街に納税もするだろうから、お前らにとっても得になるさ」
ノエルの肩を叩いてやるも、彼が迷宮酒に口をつけることは一生なかった。




