超えられない壁は破壊するものだ
「さあ、暇人と暇を持て余した神。どっちが強いか闘おうじゃねえか!」
相手の情報は皆無。
そもそも魔物と同じように属性があるのかも分からない。
だが――暇人の俺にとってはこれくらい面白い戦闘の方がやる気が出るってもんだ。
「カレン! 全力でリリーと自分に強化バフを! 俺は気にしなくていい!」
「で、ですが!」
「相手は神様なんだぜ! 油断してるとせっかくの命が奪われちまうぞ!」
「分かりました……!」
エルドラは動かない。
ただにこやかに槍を持ち、構えているのみである。
せめてもの猶予でも与えているのだろうか。
なら、それがお前の敗因だってことを知らしめてやらねえとな。
リリーにバフが付与されたのを確認する。
「リリー! お前は――準備してろ!」
「ええ!? 何を!?」
「なんでもいいから飛び切りのやつを準備しろってことだよ!!」
俺は剣を構えながら、エルドラの方へと駆けていく。
瓦礫を乗り越え、蹴り飛ばし。
着実に距離を詰める。
『人間風情が無駄なことです』
「それはどうかな!!」
槍と剣がぶつかり合う。
衝撃波が周辺を轟かせ、瓦礫が粉々に崩れ去った。
「す、すごい……」
「これが……ケネスさんの力……バフなしですよ……?」
剣に思い切り力を込め、槍を薙ぎ払う。
『むっ』
槍が大きく後方にブレ、相手の体がのけぞった。
しかしすぐに体勢を立て直し、目の前に瓦礫の壁を生成する。
俺とエルドラの間には巨大な壁が立ちはだかった。
「すげえことするじゃねえかよ」
やっぱり人間ができる技を超えているな。
こんな壁を生成されちゃあ一般人は攻撃できねえじゃねえか。
『少し油断しましたが、これくらいどうってことありません。分かりますか、これが我々と人間。その超えられない壁です』
なるほど。
面白い表現方法をする。
「超えられない壁か。確かにこんなどでかい壁作られちゃあ、そっち側には行けないな」
【一般人】じゃ超えられない壁だよ本当。
「でもな」
一般人じゃ超えられない。
確かにそうだ。
だが――残念ながら俺は一般人じゃないんだ。
【一般人】は暇を持て余してなんかいないさ。
命を粗末にするような真似なんかしない。
それこそ、無謀にも神々の迷宮に挑もうとする【一般人】なんて。
俺は違う。
「俺は――【暇人】だ」
剣を宙に投げ飛ばす。
「リリー! 俺の剣を狙って超強力な弾丸を打ち込め!!」
「――分かったわ! 特別製、55口径弾丸! 穿て!!」
リリーが持っていた銃が大きく変形し、巨大な武器になる。
そして――放たれた弾丸は俺の剣に直撃する。
膨大な威力に後押しされ、剣が加速する。
『な……!?』
轟音と共に、剣は弾丸に後押しされ壁に当たる。
「「行けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」
あれほど分厚く、高かった壁にヒビが入る。
そして――破壊した。
『な、なぁぁぁぁ!?』
エルドラの胸に俺が投げた剣が突き刺さり、膝から崩れ落ちる。
あれほどうるさかった轟音が急に静かになった。
「はぁ……やったの……?」
「やりましたか……?」
近づこうとする二人を制して、俺はエルドラに近づく。
『ふふふ……見事でした。よく神である私を倒しましたね』
エルドラがむくりと立ち上がるが、姿は朦朧としている。
今にも消えてしまいそうな、溶けてしまいそうな。
半透明な体をこちらに向けている。
『私の負けです。人類史で初めて、神が人間に敗れました』
「そうか。これで神々の迷宮『エルドラ』は攻略完了ってことか」
『ええ、そうです。攻略完了ということになります』
そう言って、エルドラは指を立てる。
すると、何か球体のような物が浮かび上がった。
『攻略報酬です。私が消え去る前に約束の加護を与えましょう』
そう言って、俺に近づいてくる。
「いや、俺はいらん」
『え……?』
「だから、俺はいらない」
『本当に言っているのですか?』
エルドラは困惑した様子で首を傾げる。
『一番活躍したあなたに加護を渡そうとしていたのですが……』
「それなら二人にあげてくれ」
言って、俺は振り返った。
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