何度でも言う――俺はお前らの夢が気に入った!
土煙と瓦礫。
ワームの死体と一緒に俺たちは真っ逆さまに落ちていった。
どうにか体勢を立て直そうとするが、上手く体のコントロールが利かない。
そりゃそうだよな……自由落下なんて経験したことねえんだから。
というか普通はしない。
空に浮かぶ魔法が使えるやつは別だが、俺は生憎とそこまで万能ではない。
二人も同様そうだろう。
カレンに少し期待していたが、この様子だと浮遊魔法は持っていない。
「落ちるところまで落ちるしかねえな!」
俺は歯を食いしばり、目を思い切り瞑る。
物理体勢強化は付与されているが怖いもんは怖い!
――ガシャァァァァァン!!
轟音と共に、どこかの床に思い切り落下する。
瓦礫が音を立てて崩れ去り、パラパラと土が降ってきているようだ。
「ギリギリ耐えれたな……ってなんだここ」
「ええ……あれ?」
「ここどこですか? 壁もない……真っ白な空間です」
俺たちは呆然としていた。
怪我をしていないことをまず喜ぶべきことなのだろうが、今俺達がいる空間が異質すぎるのだ。
カレンの言っている通り、真っ白な空間。
壁も隔たりもない、無限とも思える部屋だ。
まず最初に自分の目を疑った。
だが、全員が同じ景色を見ているようだ。
「これは……どういうこった――」
立ち上がった瞬間、目の前に閃光が走った。
思わず目を細め、身構える。
『まさか、神聖な床を破壊する人間がいるなんて。私、本当に驚きましたよ』
とは言え整備をサボっていただけなのですが、と長い髪をかきながら佇む人物がいた。
男とも女とも取れる容姿に声。
輝かしい衣装に身を包んだ人物はこちらを見る。
『私はエルドラ。ここを作りしマスターであり、皆様が困った時に祈りを捧げている神です』
「おいおい……マジかよ」
神々の迷宮だとか、神様だとか。
正直俺は微塵も信じていなかった。
でも、目の前に現れた人物は神と名乗った。
信じられない気持ちもあるが、周囲の空間を見れば異様なのが分かる。
少なくとも、相手は人間ではない。
「神様っているんだな。驚いたわ」
『ええいますよ。人間が信じる限り存在しています』
「その人間に危害が加えられているようだが、神様ってやつは趣味が悪いのな」
『神の遊びですよ。少しお茶目なだけです』
こいつ……気に食わねえな。
俺は暇人だからここにいるわけだが、生憎と正義感というものは少しばかり残っているらしい。
「で、マスターってことはお前を倒せば迷宮はクリアになるってことか」
『その通りです。愚かにも神に挑みし人間よ、まずは褒めてあげます。ここまで到達した人間は幸か不幸かあなたたちが初めて。いや、世界に存在する神々が作りし迷宮で初めて到達した人間でしょう』
「褒められてるぞ、二人とも」
二人に話を振ると、リリーが一歩前に出る。
「あなたを倒せば……夢が叶うのよね」
『夢と言いますか、加護を与えます。力を与えるのです。ただし、ひ弱な人間が神に抗う必要がありますが』
カレンがリリーの隣に立つ。
「なんでもいいです。私たちはあなたを倒します」
そう言うと、エルドラは目を細める。
『いいでしょう。それでは勝負をしましょう。人類史上、初めての神との戦いです』
エルドラがそう言うと、彼の手に槍が握られる。
巨大な槍だ。彼の身長の二倍ほどの長さである。
「二人とも、俺は暇人だ。気まぐれでここにやってきて、たまたまお前たちと出会った」
そう。俺はただの暇人だ。
「でもな、何度でも言う――俺はお前らの夢が気に入った! 全力でやりあうぞ!」
「もちろん!!」
「はい!!」
俺たちは剣を、銃を、魔法を。
持っている己の武器を構え、神と相対する。
『来なさい。己の夢を強欲にも掴もうとする人間よ』