覚悟
「アルト伯爵に雇われた兵士……で合っているかな?」
「……離せ! てめえらぶっ殺すぞ!」
「絶対に離さない。それに自覚した方がいい。今この状況で、どちらがお互いのためになるかをね」
ユウリさんは兵士の肩を叩きながら、会話を辞めない。
やはり彼女はプロである。
俺とは違って、また違った威圧感を持っている。
俺に視線を向けて、こくりと頷く。
今度は俺の番ってところか。
「初めまして。俺はここの革命軍のお手伝いをしています。よろしく」
「……てめえ。革命軍の手伝いをするってことは貴族を敵にするってことなんだぞ? それがどういうことか分かってんのか?」
「生憎と貴族と付き合うのには慣れていてね。ある程度覚悟はできている」
神々の迷宮を攻略する上で、色々と貴族には世話になった。
別にこれくらいどうってことはない。
「で、だ。お前はどういう経緯でアルト伯爵に雇われた」
「……金だよ。それ以外には何もねえ」
「へえ。まあ兵士らしいか」
俺は頷きながら、ユウリさんに視線を送る。
まあ別にこの質問はどうだっていい。
これくらいは普通に予想はできていたことだ。
「今からお前に二つの選択肢をやる。心して聞くように」
ユウリさんが指を立てて、兵士に近づく。
覗き込むように窺い、頭に手を置く。
「革命軍に付くか……それとも引き続きアルト伯爵に従うか。私のオススメは革命軍に付くことだ」
「ど、どういうこったよ!」
「私たちは革命を起こす。その上で、きっとこれから先戦争は避けられないだろう。私としては犠牲者はゼロ人で抑えたい。だから、私の方に付いてくれないか」
身の安全は保証する、と彼女は言う。
そう、俺たちはアルト伯爵ととことんぶつかり合うのだ。
その上で、相手と戦う時は武器を使用することになるだろう。
もちろん犠牲者はゼロにするのが目標だ。
だから少しでも、向こうの兵士をこちらがわに付けておきたい。
「どっちに付く?」
「……本当に守ってくれるのか?」
「約束しよう」
ユウリさんが言うと、兵士はこくりと頷いた。
交渉は成立ってところか。
「よし、それじゃあお前は他の兵士にも伝えておいてくれ。革命軍とは協力関係になったとな」
「分かった。そうさせてもらう」
注意をしながら縄を解き、兵士を近場の馬車乗り場まで案内する。
俺たちはそれを見届けながら、ユウリさんの方を見る。
「これから始まるぞ。本当の革命が」
「分かってる。覚悟はある程度できてるよ」




