騒がしいなぁ
「全く……オッサンに引っ付くの、そんな楽しいか?」
俺は街へと歩きながら、騒がしいリリーたちに尋ねる。
こんなオッサンに引っ付いても面白いことなんてないと思うけどな。
はっ……!
もしかしてお金が目的か!?
お金が目的ってのなら納得が行く。
なんせ我ながら俺はめちゃくちゃ貯金をしている。
それを狙っている……と考えたら、うん。理解できる。
「それは……なんでだろう?」
「楽しいからですかね?」
「あ、ああ……」
いやいや、何考えてんだ。
そもそも彼女たちに俺の貯金事情なんて話したことはないし、万が一話していたとしても彼女たちはそんなことしないはずだ。
女の子は怖いって言うけど、彼女たちは例外。
いや、その考えは駄目なのか?
オッサンが単純に女性陣に淡い希望を抱いているだけになったりする?
……これくらいの淡い希望は許してくれるだろう。
「そろそろ街だ。んじゃ、恥ずかしいから離れてくれよ」
「はーい」
「残念ですが、仕方ありませんね」
こいつら、街に行かなかったらずっと引っ付いていたつもりかよ。
頭をかきながら街の門をくぐろうとすると、ふと目の前の人と目があった。
「待っていた」
「ユウリさん」
いつも通りのキリっとした瞳をこちらに向けて、佇むユウリさんの姿があった。
うん。彼女はこの姿がやっぱり似合う。
「魔物の気配が突如として、ほとんどなくなった。辺りを確認しても、強敵と言えるような魔物の存在はなかった。これはつまり……そういうことなんだな」
「ああ。神々の迷宮『ケミスト』は攻略した。もう魔物の脅威はなくなったと言えるさ」
言うと、ユウリさんはぐっと拳を握りしめて少し顔を伏せた。
やはり気にしているのだろうか……と不安になったのだが。
「ありがとう……! 君たちのおかげで街の驚異が一つなくなった!」
俺の方に駆け寄ってきて、握手を求めてきた。
俺は咄嗟に握手を返すが、少し驚いてしまう。
彼女もなんだ。
若い方だし、美人だから近づかれるとドキドキしてしまう。
オッサンとは言え、若い人に近づかれるのには耐性がない。
待て待て。
そういったものの、それじゃあ悲しいオッサンみたいになってるじゃないか。
気持ちを切り替えよう。
「これが俺の役目だからな。神々の迷宮を攻略するのは俺たちの目的でもあるし」
「そうか……よし。それじゃあ本部に戻ろう。皆君たちのことを待っている」
「分かった。んじゃ、リリー、カレン。本部に向かうとするか」
「分かったわ!」
「もちろんです!」
俺たちは歩きながら、本部へと向かう。
魔物の驚異がなくなった街は少しだけ平和に見えた。
少しだけだが、子供たちが外に出ている景色も見える。
まあ……やはり危険があるから少数だけれど。
まだまだやるべきことはあるな。
最終目標は、革命を起こすこと。
ああ……荷が重い。
でも、やるって決めたからにはやる。
俺はこの街を変えてみせる。
本部の門をくぐると、革命軍のメンバー一同が俺たちの方を見た。
「英雄の帰還だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「英雄様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「代表を救ってくれてありがとう!!!!」
「お前ら飯の準備をしろ!!」
一斉に声を上げて、バタバタと走り回る。
俺の方に走ってきた男がガシッと肩を掴んできた。
「おおう!?」
突然だったもので変な声が出てしまう。
なんだなんだと見てみると、歯を見せて笑い、
「さぁさぁ座ってくれ!」
と背中を押してきた。
「おわ!?」
「わわ!?」
それはリリーたちも同じようで、背中を押されながら着席を促される。
苦笑しながら押されていると、ユウリさんが隣まで歩いてきた。
「すまない。皆、君たちの帰還を本当に待っていたんだ」
後で向かうよ、と言い残してユウリさんは奥へと去っていく。
あの! 俺たちを置いて去っていかないで!
助け舟を求めようとするが、リリーもカレンも流されている。
唯一の希望であったユウリさんもいないので、俺は流されるまま着席した。
まあ悪くないけどな。
こう祝われる経験なんて、ほとんどしたことがない。
少し恥ずかしいけれど、嬉しくもある。
「お酒はいるか!? いるよな!?」
「あ、それじゃあ貰います」
「肉もいるよな!?」
「それじゃあそれも」
「もう全部盛りでいいよな!」
「ええ、マジですか。ありがとうございます」
なんか知らないが、全部盛りになった。
どんな料理が届くのだろうかと待っていると、一人の女性と男たちが料理を持って歩いてきた。
「おまたせしましたー! いっぱい食べてくださいね!」
あれ、ここにも女性の方がいたんだな。
なんて不思議に思っていると、女性がにこりと笑う。
「私ここの元受付嬢ですよ。今はお手伝をしていますー」
「あ、そうなんですね。すみません、ちょっと見つめちゃいまして」
なんてことを言うと、元受付嬢さんは唇に指を当てて、
「もしかして恋、しちゃいました?」
「え……?」
「そうですねぇ。まずは年収5億くらいから考えますかね」
「王族でも達成が厳しい数値ですけど……そこら辺分かってます?」
「目指せ国王様のお膝元~」
なんだか楽しそうな人が来たな。
とりあえずお酒でも飲もう。
用意されたお酒に口を運び、ゴクリと飲み干す。
ああ……やべえ。
これは堪らない。
喉越しもそうだし、キンキンに冷えているから体の奥底から元気が溢れ出してくる。
何よりだ。
今は時間にしてお昼。
こんな昼間から飲むお酒が美味しくないわけがない。
罪悪感が最高のスパイスになってやがる。
肴として放り込む肉。
そして繰り返すようにお酒を流し込む。
……やべえ。これはやべえ。
「頑張ってよかったー!」
思わずそんな声が漏れた。
こんな美味しい物が食べれたら頑張って良かったと思える。
「これ、めちゃくちゃ美味しいわね!」
「パクパクです! パクパク……パクパク……!」
お酒はまだ飲めない二人は、美味しそうに食事だけを楽しんでいた。
やっぱり若い子たちが楽しんでいる姿は見てみて気持ちがいい。
美味しそうに食べているのを見ていると、お酒も美味しくなるものだ。
「おまたせした。楽しんでいるかい」
「あ、ユウリさん」
隣の席にユウリさんが座ってくる。
「すまないな。少し事務作業が残っていて、その処理をしていたんだ」
「気にしてませんよ。待ってました」
「おや。私のことを待ってくれているなんて、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
ニコリと笑って見せて、ユウリさんはお酒を頼んでいた。
「お酒飲めるんだな。まだ未成年だと思っていたんだけど」
「そんなに若く見えるか? これ、褒めてくれているんだよな?」
「褒めているってことになるのか? 俺、そういうの分からないからな」
「ふふふ。上手なことを言うものだ。全く、他の女だったら落ちていたかもしれないぞ?」
ユウリさんは嬉しそうに肩で笑う。
あはは……なんていうか、俺も恥ずかしくなってきた。
お酒のせいなのか、恥ずかしさのせいなのか。
体温が少し熱くなってきた。
「ちょっと! 何いちゃいちゃしてるのよ!!」
「ケネスは私たちのものです! ユウリさんだとしても、絶対に渡しません!」
リリーとカレンが興奮した様子でこちらまで走ってきた。
食事中に立ち上がるなんてマナーがなっていないな、とツッコミを入れようとしたのだが。
「うがっ!」
肩を掴んでゆさゆさと揺さぶってきた。
「あたしにはそんなこと言ってくれないくせに!!」
「なんでユウリさんだけ口説くような言い方してるんですか!!」
「いやいや、そんなつもりないっての!!」
こいつら……恥ずかしいこと言うなっての。
「ははは! 楽しそうでいいじゃないか!」
こんな昼下がり。
まあ静かな昼食より、騒がしい方がいいか。
なんて思いながら、俺は揺さぶられながらお酒を流し込んだ。