離れろ離れろ……
【★☆★六章完結★☆★】
こんな状況下で相手をぶん殴るなんて無謀にもほどがある。
なんせ相手は重力を自在に操ってくるんだ。
そこらの人間、というか大抵の人間は抵抗することも出来ずに終わりだろう。
相手は神様。
まあ当然と言える。
だが、俺たちになってくると少し状況は変わってくる。
なんせ、うちのカレンは補助魔法なら神レベルで扱うことができるんだ。
カレンの力があれば人間VS神様から神様VS神様まで土台を引き上げることができる。
俺は剣から手を離して拳を握りしめる。
「《反転》ッッ!!」
カレンの声が響いた瞬間、この空間の重力が反転した。
一方通行に俺へと働いていた重力が、逆転したのだ。
俺の体は再度浮かび上がり、そしてケミストへ向かって加速する。
『……どういうことだ!?』
ケミストは動揺しているらしい。
まあこれに関して言えば、ケミストの慢心と言えよう。
こっちにも神様の能力が付与されているのを考えていなかったからだ。
「重力の重みで殴られる経験はしたことあるか!? ケミストさんよぉ!!」
俺は加速する体に身を任せ、拳を思い切り引く。
そして――ケミストの顔面に向かって拳を放った。
顔面が歪み、吹き飛ばされる。
爆音と一緒に土煙が上がり、重力の制限が解除された。
俺は久々の普通に安堵しつつ、地面に降り立つ。
「ふぅ~スッキリした」
拳を振り払いながら、俺はケミストの下へと歩いていく。
土煙の中進んでいくと、壁にもたれかかっている姿が見えた。
「まさか負けるなんて思っていなかっただろ?」
『……ああ。僕は偉い人の言う事なんて興味ないからさ、本気で殺そうとしていたんだけど……まさか負けるなんてね』
ケミストは苦笑しながら、よろよろと立ち上がる。
体は透けており、長時間は現実世界に存在することはできないだろう。
『負けてしまったなら仕方がない。文句は言えないから、偉い人の注文通りにするけれど』
言いながら、ケミストが指を弾くと球体が現れた。
そろそろ見慣れてきた頃合いだ。
さて、今度はカレンとリリーどっちに……。
『今回は君だよ。ケネスくん』
「え? 俺?」
まさか俺の名前を呼ばれるなんて思いもしなかった。
想定外だったもので少し動揺してしまう。
「おいおい。俺は加護を欲しがらないって天界では共通認識じゃなかったのか?」
『いーや、今回は君にあげるよ。拒否権はない』
「ええ……マジかよ」
俺、本当に興味ないんだけどな。
まあ……貰ってみてもいいのか?
「あたしは構わないわよ」
「貰ってみてもいいんじゃないですかね?」
「お前ら……いらないのか?」
尋ねると、
「確かに欲しいけど、あたしたちばっかりだとね」
「ですです」
俺は別に気にしていないんだけどな。
うーん、まあそれじゃあ貰っておくか。
「それじゃあ面白い能力頼む。暇つぶしできそうなやつ」
『ふむ。なら僕が使っていた重力魔法はどうかな? なかなか面白い能力だと思うけど」
「いいなそれ。俺も使ってみたい」
『決まりだね』
そう言うと、球体が俺の体の中に入ってくる。
おおう。こんな感じなのか。
なんだか胸が熱くなるような感覚を覚える。
「これが加護か。へえ、面白いじゃん」
俺は試しにケミストに向かって重力魔法を発動してみる。
『なっ……!』
ケミストは抗うことも出来ずに地面に突っ伏し、プルプルと震えていた。
すげえ、これが重力魔法か。
「反省しろよ。神様だからって好き放題していいってわけじゃないんだからな」
『……この一瞬で僕の能力をものにするなんてね。反省はしてるさ。僕は全てが終わるまで、何もしないよ』
「あ? なんだ、その含みのある言い方」
『何でも無いよ。いずれ分かることさ。それじゃあ、僕は帰るとするよ』
言って、ケミストの体が消えていく。
『じゃあねケネスくん。また来世で』
「なんだその言い方! ちょい待て!」
俺が手を伸ばそうとした瞬間、視界がパッと光った。
目を瞑り、開けた頃にはもう迷宮の外に移動していた。
「ああ……何だったんた一体――ってうお!?」
困惑していると、目の前にあった球体が瓦解した。
咄嗟に回避するが、下手すれば巻き込れる可能性もあったな。
「危ないな本当……」
俺は頭をかきながら嘆息する。
「ひとまず攻略できて良かったわね! これでユウリさんたちも安心できるわよ!」
「そうだな。魔物の気配もなくなったし、革命軍は本格的に動けるわけだ」
「そうですね。後は、私たちも一緒にアルト伯爵をぶっ飛ばすだけです!」
アルト伯爵か。
全く、面倒な相手だな。
人間とやり合うなんて、俺はあまり好きじゃないんだけど。
しかし虐げられている人々を見ていると、そういうわけにはいかない。
手伝うって決めたことだ。
俺も全力を尽くして革命軍のアシストをしよう。
「それじゃあ戻ってユウリさんに報告するか」
「だね! よーし、頑張っちゃうぞ!」
「頑張りましょう!」
腕を上げながら、俺に抱きついてくる。
って……こいつら何回言っても分かってくれないな。
もう慣れたけど。
「離れろ離れろ……」
俺は嘆息しながら、彼女たちを引き剥がす作業を始めた。
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