夢の話でもしようじゃないか
第一階層は殲滅。
まあ雑魚はそこら辺に湧くかもしれないが、基本的に主部屋はセーフゾーンになる。
俺はあぐらをかいて、二人は律儀にも正座をして座っている。
少し歳の差もあると思うから、話し言葉には気をつけないとな。
なんだろう最近の流行って。
〇〇やってみた系……とか?
なんかそういう類の記録みたいな日記(?)が売れていると聞いている。
「夢、だよね」
「ん? あ、ああそうそう」
いや、今は必要ないか。
考え過ぎだな。俺自分でオッサンって言ってるけど、まだ若いと思うし。
思うし……何落ち込んでんだ俺。
「あたしたちの夢は『人々の心に刻まれる』人間になること。それこそ、あなたのような誰かにとっての英雄になりたいの」
「そうです。だからこそ、私たちは頑張ってSランクにまで成り上がりました。でも……」
「それじゃあ足りなかったってことか」
Sランクでは足りない……といえばそうだ。
確かに最高ランクではあるが、それは『一般人』が到達できる最高ランク。
国王に認められた聖女や勇者、賢者という更に上の階級だってある。
その人たちこそ、誰かの心に刻まれる英雄だろう。
まあ、Sランクに到達する時点で一般人とは言えない部分もあるが。
「それで神々の迷宮に挑んだってことか。狙いは与えられると言われている加護。それか?」
「ええ」
「そうです」
なるほどなぁ、と天井を見上げる。
それにしてもチャレンジャーなことをするものだ。
なんせ、あくまでそう言われているだけなのだ。
誰も攻略したことがないから神々の迷宮と呼ばれている。
冒険者からの認識は夢が詰まった場所。
対して、一般人にとっては危険な魔物が住まう恐ろしい場所だ。
皮肉なものだな、と思う。
ともあれ、夢を抱くのには納得がいくほどの言い伝えはあった。
俺は単純に暇人だから挑んだってだけなんだけど。
「俺がどこまで行けるかは分からないけど、大方理由は分かった。まあ存分に俺を使ってくれ。君たちの夢は素晴らしいと思うしさ」
俺と違って夢を抱いている。
それだけでも眩しいし、正反対だなと思う。
「ありがとう。あたしも全力で頑張るわ。頼りっぱなしもだめだしね」
「私も全力でやります! 命、燃やします!」
「死なない程度にな。死んだら何もできなくなる」
言って、よっこらせと立ち上がる。
「さて、第二階層だ。できれば浅いダンジョンだとありがたいんだけどな」
「信憑性は微妙だけど神々の迷宮は浅いことが多いらしいわよ。なんか、冒険者の間で話題になってた」
「なんだそれ。神様とやらの情けか?」
「さぁ。でも、少なくとも神々の迷宮は攻略されるためにあると思っているわ」
「なるほどな。攻略されたがっているか、不思議な言い回しをするもんだ」
もしそれが本当なら面白い話である。
攻略されたがっているダンジョンなんて普通は存在しないだろう。
主部屋の壁を触っていると、第二階層へと続く階段が現れた。
「よし。軽くやっていこう」
「軽くって……多分ここの階層乗り越えたの、人類であなたが初めてよ?」
「そうですそうです。未踏破エリアですよ」
「ああ……まあ別にレアなことでもないだろ。踏破されてるかされてないかの違いだけだ」
「本当にケネスのことは分からないわ……」
「同じくです……推し量れない……」
どうやら俺の性格は難ありらしい。
まあ自覚していることだ。
捻くれ者だと思う。
悲しきかな。
「って早速だな!」
壁から舞い降りてきたブラックバットの攻撃を、とっさに避ける。
「今のよく避けれたわね!?」
「どうやって避けたんですか!?」
「気にすることじゃないぞ! 戦闘だ!」