無茶はするな
「私は……不味いと思ったのだ。私じゃない誰かに、神々の迷宮を攻略されるのが」
ユウリさんは揺れる瞳をこちらに向けて、語り始める。
私じゃない誰かに攻略されるのが不味い……ってどういうことだろう。
「君が来てくれたのは本当に嬉しかった。きっと、革命軍の大きな力になると思ったさ。でも……私は弱い。代表だと言うのに、外から来た誰かの力を借りて……そんなの示しがつかないと思った」
握りしめている拳が震える。
「前々から考えていたんだ。加護を手に入れれば皆を救えるんじゃないかって。しかし……君が攻略してしまうと私は……!」
大体彼女の考えていることは分かった。
これでも俺はある程度場数を踏んでいるつもりだ。
彼女がどうしてそんな行動をしたのか、どうしてそういう結論に至ったのか。
共感はもちろんできる。
だが。
「でも、代表であるお前が死んだら残っている人たちはどうするつもりだったんだ」
「……それは」
確かに彼女の言っていることは理解できる。
代表として示しがつかないというのも分かる。
でも、その代表がいなくなってしまったら残された人はどうなる。
「残された人を、部外者である俺がまとめるのか?」
「違う……そんなの駄目だ」
その通りだ。
部外者である俺が残された人々をまとめるのは違う。
俺は暇人ではあるが、善人ではない。
そこまでする義務なんてもちろんないわけで……まあそんなこと言っちまうとリリーたちに怒られちまうかもだが。
ともあれだ。
「無茶はするな。代表が死んでどうする」
「……すまない。少し考えが幼稚だった」
「別に幼稚なんかじゃないさ。ユウリさんの考えは理解できる。って、革命軍の代表にタメ口きいちゃってるけど、今更謝っても間に合います?」
「ふふ。いいさ別に、それくらい許そう」
ユウリさんは少し涙を滲ませながら、俺の方に手を差し出してくる。
「神々の迷宮の攻略、頼まれてくれるか?」
俺は深く頷き、差し出された手を握り返した。
「当たり前だ。これは俺たちの仕事だからな」
さて、ユウリさんの案件は無事解決だ。
「ケミスト。ユウリさんを迷宮の外に……いや、可能なら街まで戻してやってくれないか」
俺がどこかにいるであろう腕に叫ぶと、どこからともなく現れた。
そして、指をピンと立てて。
『注文が多いなぁ。ま、実験に付き合ってくれたお礼はしないとね』
言って、指を弾くとユウリさんの足元に転移魔法陣が展開される。
「それじゃ、街を引き続き守ってやってくれ」
「もちろんだ。頼んだぞ」
光りと共に、彼女は迷宮外へと転移した。
ケミストさんもお願いはある程度聞いてくれるのな。
「よーし。んじゃ、ユウリさんの分まで迷宮を攻略しないとな」
「そうね! 任された以上、責任は全うしなきゃ!」
「ですです!」
俺はぐっと伸びをして、浮いているケミストに指を差す。
「こっちはお前といつでも勝負する準備はできてるぞ! それとももう少し時間稼ぎしておくか?」
『煽るなぁ。確かに、もう少し時間稼ぎしてもいいかもしれないけど……隣にいるカレンくんのバフが厄介だからね』
ケミストは長考した後、俺の目の前にまでやってきた。
『じゃあ、そろそろ僕と本気の勝負しちゃおうか』
瞬間、体が宙に浮いた。
視界が眩く輝き、次に目を開く頃には場所が変わっていた。
『ようこそ。僕の世界へ』
不可思議な空間に立つ少年は、ニヤリと笑う。




