罠と戦闘
「リリー、大丈夫そうか?」
「ええ。もうジャンプしてもいいくらいには平気よ」
言いながら、その場でぴょんぴょん跳ねて見せる。
正直危なっかしくて仕方がないが、大丈夫ならそれでいい。
俺は一呼吸置いて、正面を見る。
「全く奥が見えないな。明かりはあるはずなのに……どうなってんだこれ」
「不気味な構造してますよね。進むのも少しはばかられます」
「ダンジョンらしいと言えばそれで終いだが、まあ不安要素ではあるな」
「気にしてもキリがないわ。前進あるのみね」
「そうだな。オーケー、んじゃあ頑張っていくか」
「ええ!」
「はい!」
二人から確認を取り、前へと進んでいく。
足場は相変わらず不安定で、進むのにも苦労する。
今までの神々の迷宮の中では断トツで雰囲気は最悪だ。
これもケミストの趣味が出ているのだろうが、そう考えてみると今までの神様より警戒した方がいいのかもしれない。
悪い意味でも良い意味でも、相手はしっかりとした意思を持ってこちらを迎え入れている。
カチン。
歩いていると、足元から急にスイッチのような音が聞こえてきた。
「ちょい待て。誰か何か踏んだか?」
立ち止まり、俺は手を剣のグリップに置く。
二人を交互に見ていると、少し青ざめた様子のカレンがこちらに顔を向けた。
「私です……何か踏んじゃったらしいです……」
「分かった。それじゃあひとまず――」
同時に轟音が響いた。
それを確認した俺は剣を引き抜き、カレンの隣に立つ。
「はああ!!」
――ドゴンッッッ!!
巨大な物体が降ってきたのを、俺は急ぎで斬り落とした。
真っ二つに切断されたそれを眺めてみる。
「こんな大きいもんを人にぶつけようとしてきたのかよ……」
鉄製の巨大なハンマーが床に転がっている。
おいおい……マジで殺す気だな。
頭をかきながら、今後の攻略に頭を悩ませる。
毎回こんなのが仕掛けられていたら攻略にも苦戦してしまいそうだ。
「ええ……これ鉄よね?」
「そうだな。マジでケミストの野郎、悪趣味だわ」
「いやいや、それもそうだけど鉄を剣で斬ったの?」
「そうだが。何か変なことでもしたか?」
「こんな巨大な鉄の塊を普通、剣で斬れると思う?」
「そりゃ斬れるだろ。気合いがあれば」
「……それもそうね。カレン、ケネスが仲間で良かったわね」
リリーが嘆息しながら呟く。
「本当にすみません、ありがとうございます……」
「気にすんな。トラップに引っかることくらい誰だってあることだ」
それに何かあったら俺が全力で斬ればいいだけである。
気にするようなことではない。
「怖いのは魔物だけだ。各方面に注意をしながら進もう。とはいえ一方通行だから前後と上下を見ればいいだけなんだが……」
なんて言っていると、二人がぶんぶんと首を横に全力で振った。
なんだ、注意するのが面倒くさいってか?
今更何を言っているんだ。
ここまで来て探索なんて無理ーなんて言われるとオッサンも流石にキれるぞ。
「後ろ! 後ろ!」
「後ろ見てください!」
「ええ? 後ろ?」
慌てた様子の二人に疑問符を浮かべながら振り返る。
え?
「おいおいおい……!」
前を向くと、地面から大量の魔物が生み出されていた。
魔物が自然発生するってのは普通じゃありえないこと。
つまり、またケミストの野郎が何かしたってわけだ。
「武器を構えろ! 相手の数は多いぞ!」
相手は十体以上はいる。
いや、更に増えてきたか……!
「俺一人じゃ限界があるな。カレン、強力なバフを頼む!」
「任せてください! 《神域・斬撃強化》《神域・攻撃強化》《神域・一撃強化》」
よし、バフは無事付与された。
その頃には、相手は何十体も数を増やしている。
俺はバックステップを踏んで、リリーの後ろまで下がる。
「リリー! 撃ちまくれ!」
「もちろんよ! 穿て!!」
リリーが合図と共に弾丸を撃ちまくる。
閃光が辺りをチカチカと照らす。
硝煙の香りが鼻孔をくすぐる。
轟音はなおも続き、しばらくするとほとんどの魔物を一掃していた。
「これ以上弾丸使うとやばいかも!」
「いや、十分すぎる! 後は俺に任せてくれ!」
リリーの肩を叩き、前面に出る。
魔物の種類は様々だが、どれも雑魚敵なのは間違いない。
俺の剣術なら――無問題だ。
「お前らはおねんねしてろ!」
攻撃系のバフが付与されていることもあり、一発当てるだけで何体もの魔物が倒れていく。
こりゃ爽快だな。
さすがはカレンのバフ魔法だ。
俺は剣を止めることなく、斬撃を繰り返す。
魔物は足掻くことも出来ずに次々と倒れていき、最後の一体となった。
「よーし、これで最後だ」
すうと、息を吸い込み、そして最後の一体に向かって一閃。
魔物はその場に倒れ、消滅した。
魔物が消滅するなんてことは滅多に発生しないので、やはりケミストが生み出した物と考えて良さそうだろう。
「お前ら怪我してないか?」
「大丈夫です!」
「大丈夫よ!」
確認を取り、息を吐こうとした瞬間のことだ。
――ガシャァァァァン!
轟音が、前方から聞こえてきた。
「クソ……またか!?」
前を見ると、奥の方から影が近づいてくる。
次第に、輪郭がはっきりとしてきた。
「ユウリさん!!」
「って……なによこれ……」
目の前には、ユウリさんを片手で持った巨大なゴーレムの姿があった。