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【書籍化・コミカライズ】追放されたおっさん、暇つぶしに神々を超える〜神の加護を仲間の少女達に譲っていたら最強パーティが爆誕した件〜  作者: 夜分長文
六章 神々の迷宮『ケミスト』

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【YES】【NO】

「で……ケネス。入り口どこだと思う?」



「一周してみたけど、入り口らしきもんは見つからなかったな」



 俺たちは『ケミスト』の外周をぐるっと回ってみた。


 入り口を探すためにしたものなのだが、生憎とダンジョンの入り口は見つからなかった。



「どういうこった……入り口がないダンジョンなんて初めてみたわ」



 頭をかきながら、『ケミスト』を眺める。


 時間がないってのに、これじゃあユウリさんが危ない。


 万が一のことが普通にありえるのだ。


 急がなけれならないってのに。



「困ったな。ぶった斬って……は多分無理だな。全く、こりゃ早速足止めか――」



 嘆息しながら『ケミスト』に背中を預けた瞬間、世界が暗転した。


 確かに背中には石の塊があったはずなのに、一瞬にして目の前が真っ暗になったのだ。


 思い切り背中を地面にぶつけ、俺は悲鳴を上げる。



「痛え……どういうこった?」



 周囲を見渡すと、様々な家具が壁にひしめき合っていた。


 重力を無視し、さながら子供が無邪気にも乱雑に組み上げた積み木のような場所だ。



「うわぁぁぁぁぁ!?」



「きゃっ!?」



「おお!?」



 立ち上がり、呆然としていると背後から頭突きが飛んできた。


 思い切り転がり、顎を地面に叩きつける。


 痛さに悶絶しながら、顔を上げてみるとリリーとカレンの姿があった。



「ごめんケネス! 触れたら引きずり込まれて……そのまま直撃しちゃったわ」



「いやいいんだ。わざとじゃないならな……いってぇ……」



 顎をさすりながら立ち上がり、俺は改めて周囲を確認する。


 本当に歪なダンジョンだ。


 何度も言うが、小さな子供が好き勝手に作った場所にしか見えない。


 床だって、これは本当に床なのか疑ってしまうほどだ。


 今俺が地面として踏んでいるのは……机か?



「意味が分からん」



 なんて考え込んでいると、目の前に見覚えのある文字列が現れる。




 ――――――――――――――――

 神々の迷宮『ケミスト』へようこそ


 僕は歓迎するよ

 ――――――――――――――――




「またこれか」



 しかし俺はこいつを見ると無性に斬りたくなる。


 というか、今回に限って言えば急いでいるので無視したいところだ。



「すまんが話は後で――」



 剣を構え、斬ろうとした瞬間のことだ。



『君は本当にせっかちだね。僕の歓迎の言葉を最後まで聞いてくれよ』



「なっ……」



 文字列から腕が浮かび上がり、素手で剣を防いだ。



『改めて、ようこそ僕の楽園へ』



「なにこれ」



「腕がぶんぶん動いてますね」



 腕だけが空中に浮かび上がり、動き回っている。


 さながら奇妙な光景だが、相手が神様と考えるとできなくはないだろう。



「恒例行事を邪魔するなんていい度胸だな」



『こちらの恒例行事を邪魔するのもいい度胸だと思うよ? ケネスくん』



「邪魔なもんは邪魔だ。それにこっちは急いでいるんだ。相手は後でしてやるから帰ってくれないか」



『悲しいな。神様に言う言葉じゃないでしょそれ』



 飛び回っている腕が、わざとらしく落ち込む。


 というか、腕だけで感情を表現しているのすごいな。


 見ていると、途端に俺の額にデコピンしてきた。



「痛いじゃないか! 何すんだ!」



『まあまあ、話を聞けってことだよケネスくん』



 額を押さえながら見据えると、おそらくケミストであろう腕が指をピンと立てる。



『聞いてよ。この迷宮は君をすぐに迎え入れるために一方通行に作り変えたんだけどさ』



 俺のためにか。


 歓迎されているのは複雑だ。



『君たちじゃない余計な者が入り込んだんだよ。ここから少し先で必死に生きながらえようと頑張っていると思うんだけど』



「やっぱお前の相手をするのは後だ。リリー、カレン。すぐ向かうぞ」



 言質は取った。


 間違いなくこの先にユウリさんがいる。


 それにケミストが言っていることが正しいのなら、彼女は危機的状況下にある。


 こいつを相手にしている暇なんてない。



『まあ待ちなよ。僕は君に興味があるんだ。もう少し話をしようよ』



「俺に興味があるって言ってくれるのは嬉しいが、その余計な者ってやつをお前はどうするつもりだ」



 尋ねると、またも指をピンと立てる」



『邪魔だから消すよ』



「てめえ、覚悟しとけよ。会った時は思い切りぶっ飛ばしてやるからな」



 寄ってくる腕を振り払い、前進していく。


 くそ……足の踏み場がごちゃごちゃしているせいで進みづらいな。


 こいつの性格もそうだが、迷宮の構造にも腹が立つ。



『分かった。それじゃあ勝負しよう』



 そう言って、腕が指を弾くと目の前に文字列が現れた。




 ――――――――

 【YES】 【NO】

 ――――――――




「なんの真似だ」



『今、邪魔者を僕特製の魔物が保護した。あいつはなかなか頑張って作ったものでね。よければ相手してやってくれ。僕はそいつが戦っている様子を見てみたい』



 言いながら、俺の目の前に腕がやってくる。



『もし倒すことができたら彼女を迷宮外に解放しよう。その代わり、倒せなかったら彼女を消す』



「で、この文言は?」



『その条件に同意するかどうかだよ。どうする、君は自分の実力に自信があるかい?』



 なるほどな。


 本当、ケミストとやらは悪趣味だ。


 面倒くさい真似をしやがる。


 俺は頭をかいた後、思い切り【YES】を殴りつけた。


「やるに決まってるだろう、クソ野郎」

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