罪を重ねる(エド視点)
【★☆★五章完結★☆★】
エドたちはケネスの居場所を探すために、情報収取に勤しんでいた。
しかし、案外すぐにある程度の情報は手に入った。
理由としては単純で、ケネスが各地で活躍しているようだからだ。
噂によれば、あの神々の迷宮を攻略しているらしい。
「さすがにデマだとは思うが。あいつにあんな噂が流れるなんてな。器用貧乏なだけだってのに、世間は過大評価しすぎなんだよ」
「そうね。さすがに神々の迷宮を攻略しているだなんて、無理があるわ」
エドは街を歩きながら、次なる情報を探す。
彼の腰にはナイフが仕込まれており、保身用でもあると同時に脅しの道具でもあった。
自分たちは近距離戦が苦手だ。
そのため、相手から距離を詰められると負ける可能性がある。
特に今、自分たちは数多くの人間から舐められている。
下手なことをすれば襲撃は避けられない。
そのためのナイフであった。
「まだ情報が足りない。よし、あいつから聞き出してみるか」
エドの目の前には馬車乗り場があった。
そこには多くの馬車が止まっており、御者が眠たそうに居眠りをしている。
彼らなら各地の情報を知っているはずである。
エドたちはこそこそと忍び寄り、運転席に乗り込む。
そして、
「おい、起きろ」
「んん……ああ……ああ!?」
「黙れ。叫んだら首から血が流れることになるぞ」
エドはナイフを御者に突き立て、口を塞いだ。
ここまでのことはしなくてもいいはずだが、今の彼らにはそこまでの判断能力はなかった。
ケネスが抜けたことにより虐げられ、限界が迎えていたのだ。
それに理由を付けるなら金がなかった。
御者を脅して場所を聞き出し、そこから無理やり運んでもらおう。
そう考えていた。
「ケネスって男を知っているか。知っていたら頷け」
御者は必死で何度も縦に頷く。
どうやらケネスのことを知っているようだった。
エドは手を離し、しかしながらナイフを突き立てたまま尋ねる。
「ケネスは今どこにいる。喋れ」
「ア、アルト伯爵領へ向かった、という話を聞いています……」
「アルト伯爵領……? どうしてあんな場所に」
エドは疑問符を浮かべた。
あそこは危険な場所だと王都にも話は届いていたのだ。
ケネスがわざわざ危険な場所に向かうとは思えない。
あいつはそんな性格じゃないはずだからだ。
危険は可能な限り避け、無駄なことはしない。
それがあいつだ。
「何か知っているか?」
「し、知りません! あの、命だけは勘弁してくださ――」
「叫ぶな。いいか、僕たちをアルト伯爵領まで運べ。そうすれば何もしない」
「嘘でしょ!? あんな危険な場所――」
「いいから早く動け」
ナイフを少しだけ首に当てると、御者は体を震え上がらせた。
そして、泣きそうになりながら手綱を握る。
馬車が動き出したのを確認した後、エドたちは後ろの席へと移動する。
「全く、苦労するな」
「ねえエド。やっぱりあれはやりすぎなんじゃない?」
「やりすぎ? お前だって賛成しただろ」
アナは不安そうな瞳を向けていた。
ナイフを脅し道具に使うことには賛成していたが、やはりいざやると罪悪感が湧いてきたのだろう。
それを見て、エドは嘆息する。
自分の彼女が小心者じゃあ、活動がしにくいじゃないか。
「いいかアナ。こっちは人生がかかっているってのは理解してるよな?」
「分かっているわよ」
「じゃあ、こんなことをしたって仕方ないよな」
「……そうね。うん、ごめん。なかったことにして」
「それでいい。最後は勝てばいいんだ」
「ええ。ケネスさえ連れ戻したら、私たちは勝ち。また勝ち組に戻れる」
と、二人は自分たちに言い聞かせた。
しかしあまりにも都合が良すぎることに彼らは気がついていない。
自分たちから――自分たちの判断でケネスを追放したのだ。
それなのに、今更連れ戻そうなんて。
あまりにも勝手すぎないだろうか。
二人に待っているのは破滅。
ただ一つだと言うのに、彼らはまだ気が付かない。
気が付かないまま、罪を重ねていく。
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