作戦(エド視点)
【★☆★五章開始★☆★】
「もう私は限界……ケネスを連れ戻しましょ?」
「ケネスを連れ戻すだって……? 本気で言ってるのか!?」
小さな宿に一室。
今までなら豪華な部屋を取っていたと言うのに、今はまともな金がないから貧相な宿しか取れないでいた。
ギルドや他方依頼主からの信用度も落ち、自分たちに直接依頼が入ってくることも少なくなった。
そんな過酷な環境にて。
アナは苦労を訴えた表情を浮かべながら、エドに提案をした。
もう限界が来ていたのだろう。
あれほどケネスを疎ましく思っていたのに、今となってはどうにかして連れ戻したい気持ちになっていた。
しかしエドは認めようとしない。
否、認めたくなかった。
自分たちにケネスが必要だって?
そんなのありえない。
ありえるわけがない。
「馬鹿野郎……今更連れ戻したら大恥だぞ……!」
しかし、エドは絶対的な否定もできないでいた。
エドもエドでかなり疲れていたのだ。
まさか器用貧乏一人を追放したことで、こんなにもパーティがボロボロになるなんて思ってもいなかった。
全く、想定していなかったことだ。
「もう十分大恥ならかいてるわよ。前だってそこらの冒険者に笑われたでしょ」
「それは……」
エドは先日、殴られた腹を触る。
これは……自分がケネスを追放しなければ負わなかったかもしれない傷である。
――何考えてんだ僕は!
一瞬でも、ケネスがいればと思ってしまった自分を殴りたくなる。
でも……限界が来ていた。
ケネスがいれば……あいつが帰ってくればこの環境も変わるかもしれない。
「あいつ、帰ってくるかな」
エドは椅子に腰を下ろし、力なく言葉を発した。
「帰ってくるわよ! 嘘でもいいから都合のいいことを言ったら彼なら帰ってくる。だってあいつは優しすぎる。それにつけ込むのよ」
「そうだ。確かにそうだ。あいつは確かに優しすぎるところがある。そこにつけ込むことができたら、戻ってくるかもしれない!」
エドたちはこの状況下に陥ってもなお、自分たちが上だと認識していた。
あいつが優秀なのは仕方がないから認めよう。
だが、あいつは馬鹿だ。
優しすぎて、誰にでも手を貸してしまう。
それに付け込んでやる。
「決まりだが……アナ。絶対ケネスに上からの態度で接しろ。そうしないと、僕は悔しく――」
「それじゃあ彼の優しさにつけ込むことなんてできないわよ。ここは妥協しましょう」
「……分かった。しかし、連れ戻すことに成功したらすぐにいつも通りに戻るからな。そうしないと、リーダーとしての威厳がなくなる」
「いいわよそれで。元に戻るなら、この際なんでもいい」
やるべきことは決まった。
エドは立ち上がり、情報収取に向かう。
「ケネスの居場所を探ろう。さっさと済ませて、僕たちの威厳を取り戻すぞ」




