男爵とギルドからのお礼
「戻ってきてくれたか! きっと君たちならやってくれると信じていたぞ!」
リレイ男爵の屋敷に戻ると、使用人よりも先にリレイ男爵本人が出てきた。
どうやらずっと門の前で待っていたらしい。
なんだか申し訳ないなと思いながらも、彼の気持ちをありがたく思う。
「ギルドからも伝達があった。ケネスたちが冒険者の面々を守ってくれたんだと」
そして、少し髪をかきながら苦笑する。
「それと、冒険者が迷惑をかけたらしいね。謝っていたよ、ケネスたちには悪いことをしたって。こちらからも謝罪させてくれ。僕の領民が迷惑をかけた」
「いやいや! 謝らなくてもいいんですよ! 別に俺たちは気にしていないんで。な、二人とも」
「ええ! 全然気にしていないわよ!」
「私もです! どちらにせよ、みんなを守れて私は満足です!」
二人がそう言うと、リレイ男爵は感激した様子で握手を求めてきた。
リリーたちは苦笑しながらも握手をする。
とはいえ、二人は嬉しそうにしていた。
きっと、誰かを守ることができたからだろう。
彼女たちにとって、人助けは生きることに等しいんだと思う。
息をするのと同じで、誰かのために懸命に生きる。
それが二人だと俺は認識している。
全く、俺より立派な生き方をしているよ。
「それよりも、だ! 僕は君たちにお礼をしなければならない! ギルドからも少し話を聞いているかもしれないが」
ああ……確か受付嬢さんが「いいことありますよ」なんて言ってたか。
別に構わないんだけれど、お礼を受け取るべき瞬間ってものもある。
ここはお言葉に甘えて受け取るべきだな。
リレイ男爵が指を弾くと、奥の方から使用人が一人やってきた。
手には袋が握られており、それをリレイ男爵に渡す。
「ギルドと僕からのほんの気持ちだ。旅の資金にしてくれ」
言いながら、袋を渡してきた。
ずっしりとした重みに、思わず声が出てしまう。
待て待て、これってもしかしなくてもお金だよな。
ちらりと中身を確認してみると、やはりお金が入っていた。
「こんなに……本当にいいんですか?」
「構わないさ。逆にこれだけしか出せなくて申し訳ない。本当はもっと出したいところなのだが、伯爵や公爵みたいにお金が有り余っているわけでもなくてね」
「いやいや、ありがたいです! すごく助かります!」
「ははは! 喜んでくれたようで何よりだよ!」
「ねね! 私たちにも見せてよ!」
「見たいです!」
「あまりはしゃぎすぎるなよ」
リリーたちは袋を持つと、まず重さに感激していた。
わいわい騒ぎながら中身を覗くと、今度はぴょんぴょん跳ねながら喜びだした。
さながら小動物のようで、思わず笑ってしまう。
リレイ男爵も同じだったらしく、肩を揺らしていた。
「二人とも笑ってる!?」
「……笑ってますよね!?」
顔を真っ赤にした二人がこちらに寄ってきた。
俺たちは仰け反りながら苦笑する。
「いや、そんなことないぞ……」
「ふふふ。僕は君たちが嬉しそうで何よりだよ」
「もう!」
「悲しいです!」
まあ、少し可哀想なことをしたな。
あれだよあれ。可愛い年下はからかいたくなるやつ。
「でも……ありがとう。本当に嬉しいわ。あたしたち、誰かの役に立てたんだなって実感できた」
「そうですね。私たちにお金を渡してもいいって思ってくれた事実が嬉しいです」
二人は恥ずかしそうに笑う。
「当たり前じゃないか! 僕は君たちを英雄だと思っているからね。英雄さんたちにはそれ相応のお礼をしないと貴族として恥だ」
リレイ男爵は胸を張って言う。
そして、俺の方を向いて腰に手を当てた。
「で、これから君はどこへ行くんだい。ずっとここに留まるわけではないだろう?」
「まだどこへ行くかは未定ですけど、また神々の迷宮に挑もうと思っています」
ここに留まるのも悪くはないのだが、やるべきことがある。
神々の迷宮を攻略し、人々を助け、そして二人に加護を与える。
暇を持て余した俺がするべきことだ。
「そうか……寂しくなるなぁ」
リレイ男爵は苦笑しながらも、俺の肩を叩いてくる。
「きっと君たちは、人々が達成できたなかったことを成し遂げることができる。これからの活動、応援しているよ」
「ありがとうございます」
「ありがとう!」
「嬉しいです!」
誰かの応援されると、胸が温かくなる。
前までいた『龍の刻印』では、こんな経験はなかった。
できて当たり前。
それが当然の世界だったからだ。
「あ、そうだ。まだ君たち次の場所決まってないんだよね」
「そうですね」
リレイ男爵は指をぴんと立てる。
「僕に提案があるんだ」
言って、くすりと笑う。
「アルト伯爵領。あそこ、実はかなりやばい状態だって聞いていてね。伯爵も性格があれでさ、領民たちも苦しんでいるんだ」
アルト伯爵領か。
確か、ここから少し離れた場所にある領地だな。
「あそここそ、英雄が行って変えるべきだね。きっと国王様も喜ぶはずだよ」
なるほどな。
大方理解できた。
俺たちの次の目標はアルト伯爵領、そこに決まりだ。




