有名ですよね!
「皆さん大丈夫でしたか!?」
ギルドまで行くと、焦った様子の受付嬢さんがカウンターから飛び出してきた。
急ぎで医療チームを呼び出し、怪我をしている人たちの様子を見る。
「全員が軽症で済んでいる様子です。相手はSランクの飛竜種……普通ならありえないのですが……」
医療チームの一人が不思議そうに声を上げると、冒険者が声を合わせて。
「こいつらのおかげだ! 彼らがいなかったら俺たちは全滅していた!」
そう叫ぶと、ギルド職員の視線が一気に俺たちに集まる。
少し気恥ずかしさも感じながら、苦笑を浮かべる。
頭をかきながら、佇んでいると受付嬢さんがこちらに駆け寄ってきた。
「むむむ……」
「え、ええ?」
じっと俺の顔を覗き込んでくる。
あまりにも距離が近かったもので、俺は一歩後退するが、それに合わせて受付嬢さんも近づいてきた。
な、なんだ急に。
「見たことがある顔です。もしかして、Sランク剣士のケネスさんだったりしますか?」
「は、はい。そうですけど……」
「やっぱり! 有名ですよね! ギルド間ではパーティから追放されて行方が分からなくなったと話題になっていたんですよ!」
まさかこんな田舎町にいるなんて、と受付嬢さんは語る。
どうやら俺はギルドの中では行方不明ということになっていたらしい。
まあそれもそうで、一度追放されてからギルドに顔を出したことなんてなかった。
それも目立たないように移動していたから、行方不明と判断されてもおかしくはない。
「なるほど。でも納得しました。ケネスさんなら余裕でドラゴンも倒しちゃいますね!」
「あはは……そこまでではないんですが……」
「ねえ。ケネスってそんなに有名人なの?」
「受付嬢さんの言い方的に、ケネス個人にSランクが付与されているような感じですが……一体全体どういうことなのです?」
二人は小首を傾げて疑問符を上げていた。
あれ、この話してなかったっけか。
でもこの様子だと二人は知らなそうだしな。
悩んでいると、受付嬢さんは俺の隣に立つ。
「ケネスさんは、これまでの実績を鑑みてギルドが特別に【個人】に対してSランクを付与した特殊な人物なんですよ。とどのつまり、たった一人だけで【Sランクパーティ】に匹敵する実力を持っていると認められたというわけです」
ああ……こう改めて説明されると恥ずかしいな。
「あ、確かリレイ男爵が言ってた記憶があるわ……」
「冒険者界隈では珍しい個人にSランクが付与された人物だって言ってた気がします」
「お前ら……もしかしなくても食事に夢中で話を聞いてなかった感じだよな」
そう言うと、二人は首をぶんぶんと振る。
「違うわよ! 個人にSランクが付与されているってのは聞いてたんだけど、一体どういう意味なのかは分かってなくて。まさか個人だけでSランクパーティに匹敵する実力の持ち主だとは思っていなかったわ……」
「そうです! 私も正直びっくりしていて、今言葉があまり出てきません」
本当か……?
なんて疑いながら、俺は頭をかく。
まあ別に知っても知らなくてもいいことだ。
俺は別に自分にSランクが付与されたのは、たまたまだと思っているし。
特別なことだとは思っているけれど、誇っているわけではない。
「とにかく! ケネスさんには感謝してもしきれません! ギルド全体から、ケネスさんに感謝を申し上げます」
「いや、いいんですよ。俺が特別すごいってわけじゃないので。もし言うならリリーやカレンに言ってください」
「ですが……」
「少しギルドの人たちは俺の実力を過信しすぎです。他の人たちも見ていると思いますが、リリーやカレンの方がすごいんですよ」
俺なんて所詮、ただの剣士だ。
しかし、二人は違う。
「なんせ、神々の迷宮を攻略して加護を与えられた者たちなんですから」
「神々の迷宮を……!? それって本当なんですか!?」
受付嬢さんが驚いた様子で二人の方を見る。
リリーたちは気恥ずかしそうにしながら、苦笑した。
「ケネスのおかげなんだけど、神々の迷宮を攻略して加護を手に入れたのは本当よ」
「そうですね。加護は一応持ってます」
「嘘……確かに神々の迷宮が攻略されたという噂は聞いていましたが、まさか本当だったなんて……」
受付嬢さんは口を押さえて驚きを見せる。
しかしすぐにコホンと咳払いをして、口角を上げる。
「そんな素晴らしい人達がこの街に来ていたなんて驚きです。といいますか、光栄です。改めましてありがとうございます」
「だってよ二人とも」
言うと、二人は恥ずかしそうに頭をかいている。
「ところで、ケネスさんはこれからどうするご予定なんですか?」
「ええと、ひとまずリレイ男爵に報告をしに行こうかと」
「男爵様と繋がりを持っていらっしゃるのですね……でもさすがにケネスさんレベルとなると当然ですか。なるほど。ギルドの方からも、リレイ男爵にケネスさんたちの活躍をお伝えしておきますね」
そういった後、受付嬢さんはにっこりと笑って、
「きっと、リレイ男爵のところへ向かうといいことがありますよ」




