来いよトカゲ野郎!
「嘘だろ……あのドラゴンの攻撃を剣一本で防いだ……?」
「こういう攻撃、これまで何発も喰らってますから。あと、仲間のバフのおかげですよ」
言いながら、俺はドラゴンの爪を思い切り弾き飛ばす。
ドラゴンは俺の攻撃に耐えきれず、大きく仰け反った。
「だから任せてください。背後に退いて、怪我をしている方の治療を」
「……分かった! ありがとう……すまなかった!」
「いいんですよ。慣れてますから」
男が逃げていくのを確認した後、ファイガドラゴンを見据える。
相手はとてつもなく巨大だ。
さすがはSランクである。
どっから湧いてきたのかは知らないが、ひとまず討伐しないとな。
「ドラゴンさんよ、相手は俺たちがしてやる。歯ぁ食いしばれよ!」
「覚悟しなさい!」
「バフを更に強化しますね! 《神域・防御強化》《神域・貫通強化》《神域・斬撃強化》」
圧倒的に成長したカレンが、俺たちにあらゆるバフを付与する。
体全身に走る力を握りしめ、相手を見据える。
「リリー! 俺の合図と同時にミスリル合金弾を放て!」
「了解!」
言って、俺はドラゴンを挑発する。
剣をくいくいと動かして、煽るだけ煽った。
ドラゴンは基本的に賢く、自分が煽られているという事実に気がつくことが多い。
今回のドラゴンもそうだった。
俺のことをギラリと睨んできて、負けじと攻撃を仕掛けてくる。
「無駄だ!」
相手の肉を斬り裂くほどの攻撃を全て剣で弾いていく。
こっちには斬撃強化のバフが付与されていることもあり、攻撃を弾く度にドラゴンの爪が破壊されていく。
最後には爪を斬り落とし、音を立てながら地面に落下した。
――グリュウウウウウウ!!
さすがにやばいと直感したのだろう。
ドラゴンは爪攻撃をやめ、グルルと唸り始めた。
喉部分が赤く燃え上がり、熱波がこちらまで届く。
「ファイガドラゴン。その名前の通りの攻撃をやっとする感じか」
炎のブレスである。
「他の皆さん! 距離を取ってください!」
「分かったわ!」
「で、でも大丈夫なのか!?」
「いいから! 俺たちのことは気にせず距離を!」
他の人たちが距離を取ったのを確認した後、俺はニヤリと笑う。
さて、カレンの力がどれだけの物か確かめないとな。
「来いよトカゲ野郎! 俺に思い切りブレス攻撃をしてみろ!」
――ギシャァァァァァ!!
俺の声と同時に、ファイガドラゴンの口腔から炎のブレスが吐き出される。
視界は真っ赤に染まり、何も見えなくなった。
「ケネス!?」
「大丈夫なんですか!? あっつ!!」
背後から二人の心配そうな声が聞こえてくる。
そら心配するわな。
仲間が急にドラゴンのブレスを自ら浴びだしたのだから。
まあ――俺はカレンを信用してたからやっただけだ。
「ふ、ふははは。すげえやこれ。これが『神域』か」
ファイガドラゴンは俺の姿を見て、呆然としている様子だった。
それもそうだ。
ブレスを浴びて、平然と立っている人間がどこにいる。
いや、今ここにいるんだけど。
まだ誰も試したことがないバフの効果を自ら確かめる【暇人】がいるわけだが。
「うわ、服焦げてるじゃん。さすがに服までは限界があるか」
少し焦げてしまった服を見ながら、俺は嘆息する。
が、すぐにニヤリと笑ってドラゴンを睨めつけた。
「どうだトカゲ野郎。これが俺たちだ」
ドラゴンは圧に負けたのか、一歩後退する。
口角をひきつらせ、悔しそうにしている様子。
だがすぐに決心がついたのか、俺に向かって攻撃を仕掛けようとしてきた。
瞬間――
「リリー! 発射!」
「了解! 喰らえ――ミスリル合金弾丸。穿て!」
この一瞬を狙っていた。
確実に、そして簡単に倒すシチュエーションを。
リリーが放った弾丸は相手の剛腕を破壊し、言葉通り完全に穿つ。
しかしドラゴンも必死である。
すかさず残っている腕でこちらを完全に殺りに来た。
「あまり暇人を舐めんなよ……! こっちは器用貧乏だって言われて追放された男だっつうの!」
後ろにバク転をして回避する。
轟音と共に土埃が上がり、視界が塞げれた。
これじゃあ全く相手の姿が見えない。
だが――それは相手も同じだ。
相手は今、絶対に俺を必死で探している。
つまり隙が生じているわけだ。
そこを逃すわけがない。
「俺はここだぁぁぁぁぁぁ!!」
大地を蹴り飛ばし、思い切り剣を構える。
そして、土埃を斬り落とし、ぐっと剣を相手に向ける。
「喰らえ!! 《水裂斬》ッッ!」
相手の属性は炎。ならばこちらは水属性だ。
剣を薙ぎ払い、ドラゴンに致命的な斬撃を与えた。
相手は悲鳴を上げることもなく、その場に倒れ込む。
ふう……これで討伐は完了っと。
鞘に収めて、息を吐いているとカレンとリリーがこちらに駆け寄ってきた。
「馬鹿じゃないの!? ブレスを直接浴びる人いる!?」
「すごく心配しましたよ! 絶対死んだと思いました!」
「あははは! あれはカレンのバフがどれだけの物か気になってだな」
「もう!!」
「……信用してくれてありがとうございます!」
よっぽど心配していたのだろう。
二人が抱きついてきて、俺は思わず驚いてしまう。
あはは……やっぱりブレスを浴びるのは無茶しすぎたな。




