俺たちがここはやります
「冒険者ギルドの上位陣を総動員して向かわせている。君たちは援護する形で頼んだ」
「分かりました。場所はどの辺りですか?」
「この街を抜けてすぐの平原だ。絶対にここまで近づけたら駄目だから、全力で死守してくれたら嬉しい」
リレイ男爵は言いながら、そして悔しそうにする。
「僕も何かできたらいいんだけど……生憎と僕はそこまでの力がないんだ」
「大丈夫ですよ。リレイ男爵は十分やってます」
リレイ男爵の肩を叩き、にこりと笑う。
そこで向こうが貴族だと言う事を思い出して焦るが、彼は特に気にするような素振りを見せない。
「ありがとう。君はやっぱり素晴らしいよ。……頼んだよ」
「了解です。よし、気合い入れてくか」
「おう!」
「気合い、バッチリです!」
俺たちは屋敷を後にし、街の中を駆けていく。
やはりSランクの魔物が現れたということもあり、街は喧騒で溢れている。
全員が不安を抱いているんだ。
無理もない。
俺だって自分が住んでいる街にSランクが現れたとなると泣きながら焦るはずだ。
もちろん、昔の自分だったらの話だけど。
今はある程度の力がある。
暇人をやってはいるが、力は付けてきたつもりではある。
街の門をくぐり抜け、平原に出た。
辺りを見渡し、件の魔物がいる場所を探る。
「あそこか」
遠くの方で轟音が響き渡り、人影がうごめいている。
とにかく急ぎで向かうべきだな。
ギルドの実力者とは言え、この田舎町にSランクパーティがいるかどうかは未知数である。
大方、Sランクは王都や都会に集中するため、こういう場所は最大でもAランクが多い。
AランクとSランクとでは天と地の差があるため、数が多くても上位の相手にはかなり無理がある。
駆けていき、冒険者たちのところまで行く。
「おおおお、やべえな。このドラゴン」
分厚い鱗に睨みつけられたら恐怖で動けなくなるような瞳。
爪は鋭くて、当たれば一発で天国に行けそうだ。
種類はファイガドラゴン。
飛竜種というよりは火竜種だ。
――ギシャァァァァァン!!
咆哮。
吹き飛ばされそうになるが、どうにか足を踏ん張って気合いで立つ。
「皆さん、大丈夫ですか! 援護しに来ました!!」
俺が周囲に立っている冒険者に叫ぶ。
「援護隊!? って……たったの三人じゃない!」
「使えねえやつは帰れ! お荷物はいらねえんだよ!」
ああ……こうなるか。
まあ無理もない。
俺たちはたったの三人だし、なんなら顔も知られていない。
顔も分からないとなると、そこらの雑魚としか認識されないだろう。
お荷物だとか帰れだとか、そういうのに反論はしたいが向こうの意見も納得できなくはない。
だが――このままだとこの人たちは死んでしまうかもしれない。
それだけは絶対に防がなくては。
死んだら元も子もない。
どれだけ全力で生きても、死んでしまったら悲しいだろ。
それなら、最後の最後まで生きて、誰かに看取られながら死にたい。
だから――俺たちが助ける。
「カレン! 早速お前の実力を発揮する時だ!」
「まっかせてください! 《神域・攻撃強化》ッッ!!」
カレンがバフを発動した瞬間、俺の体にものすごい量の力が溢れてくる。
これが神々の力……クリアリーの野郎の力か!
やるじゃねえかあいつ! 口だけじゃねえな!
「リリー! ミスリル合金弾をぶっ放せ! 相手を封じ込めろ!」
「オーケー!」
リリーの拳銃が変形し、巨大なライフルになる。
すうと息を吸い込む素振りを見せて――
「穿て!!」
弾丸が発射される。
冒険者たちの間を弾丸は縫っていき、ファイガドラゴンを穿つ。
――ギシャァァァァァン!?
自分の翼に空いた穴に困惑した様子のドラゴン。
それもそうだ。
突然放たれた弾丸が自分の体を貫いたのだから。
俺だって突然体に穴が空いたら困惑するさ。
いや、俺の場合はそのまま絶命しているか。
「な、何が起こったんだ……?」
「今の一瞬でドラゴンの翼に穴が空いただと……?」
冒険者たちが次々と声を上げ、誰だ誰だとやった相手を探す。
そして、最終的に俺たちの方を見た。
「お前らがやったのか……?」
「あの……Sランク相手に?」
ははは、そこまで驚かれるか。
こりゃ俺にとっては嬉しいな。
二人の力が世間的に認められたってことなんだから。
「俺たちがやりました。言ったでしょ、援護しに来たって」
俺たちは遊びに来たわけではない。
暇人だからって、そこは違うと断言する。
誰かを助けに来たのだ。
「嘘だ! 信じねえ! 俺たちはギルドで最強なんだぞ! お前らみたいなひよっこが相手に傷を負わせることなんてできるわけがねえ!」
おいおい……まだ反論するやつがいるのか。
俺は別に構わないが、リリーとカレンが可哀想だろ。
困りながらいると、突然ドラゴンが動き出す。
「は――」
先程俺たちに反論してきた男に向かって爪を突き立てようとした。
「し、死ぬ!! うわあああああああ!!」
全く……苦労をかけさせやがって。
――ガキン!!
「ひっ……ひ?」
「危ないでしょう。今は戦闘中ですよ?」
俺は男とドラゴンの間に立ち、剣で相手の攻撃を防いだ。
「少し離れてください。俺たちがここはやります」




