闖入者
「す、すごいわ……すごすぎるわよ……!」
「ありえないです……こんなすごいの……!」
俺たちは大きなテーブルの前に座り、料理が運ばれるのを待っていた。
そして遂に運ばれてきた料理を見て、二人は感激している様子である。
美味しそうな肉に魚。綺麗に彩られたサラダ。
どこを取っても美味しそうである。
「こんな豪華な料理、本当にいいんですか?」
「構わないよ! 僕ができるお礼っていうのはこれくらいだしさ」
「早く食べていいかしら!?」
「いいですかね!?」
リリーとカレンは興奮しきった様子で目を輝かせている。
見ていて微笑ましいくらいだ。
「それじゃあいただこうか!」
リレイ男爵の合図と共に、俺たちは食事に手を付ける。
おお……めちゃくちゃ美味い。
こんなジューシーな肉食ったの久しぶりだ。
「美味しい!! 最高だわ! 生きるのって素晴らしい!」
「美味しすぎます! 止まりません! パクパクです!」
二人のナイフとフォークは止まらない様子である。
俺は喜んでいる様子を眺めていると、リレイ男爵が声をかけてきた。
「ところで、君のことを色々調べさせてもらったよ」
「俺のことですか?」
「ああ」
言いながら、彼はこくりと頷く。
「元『龍の刻印』のメンバーであり、冒険者界隈では珍しい個人にSランクが付与されている剣士。いや、実績とか見たけど驚いたね。君は本当に化け物染みている」
「そこまで調べたんですね。というか、俺色んな人に化け物って言われるんですけど……そんなやばいですか?」
「やばいって次元じゃないよ。人間を辞めてる」
「人間を辞めてるって、さすがにそれは言い過ぎですよ」
「神々の迷宮を余裕で攻略している時点で人間じゃないよね」
「それは……どうだろう。仲間たちの力もありますし」
「それを抜きにしても君がすごいってことだよ。普通なら『剣聖』になってもおかしくない勢いだ」
「『剣聖』……ですか」
リレイ男爵は首を傾げる。
「どうして君は『剣聖』じゃないんだい?」
純粋な疑問、と言った感じで聞いてきた。
まあ……そうだな。
「国王に認知されてないからじゃないですかね。避けてきたんですよ。ほら、国王様とかに認知されたら、万が一のことがあったら処刑されそうじゃないですか。それが怖くて」
答えると、リレイ男爵がうむむと唸る。
「もったいないことをしているね。それほど国王様は怖くないよ。僕も男爵って地位だけど、国王様にはよくしてもらっているからさ」
こうやって豪華な食事を提供できるくらいには余裕があるよ、と答える。
まあ確かにこの国――ギアレスト王国は豊かである。
数多くの領地を持っているし、他国からも信頼されている。
それもひとえに国王様の実力とも言えるだろう。
「まあ……そうなんですかね」
「そうだよ。で、僕は思っているわけだ」
言って、リレイ男爵は指を立てる。
「君が神々の迷宮を攻略したこと、街を救ったこと。全て国王様に報告する」
「ええ!? それって大丈夫でしょうか……勝手に色々としたからお前処刑なって言われたりしません?」
「国王様に報告するの!?」
「ヤバみですね! 美味しいです!」
「二人はとりあえずご飯を食べるか喋るのかどっちかにしような」
国王様と言うワードを聞いて興奮している二人をよそに、俺は彼の方を見る。
「どちらにせよ、僕は国王様に報告する義務があるからね。さすがに神々の迷宮を攻略したとなると、報告しないわけにはいかない」
「まあ……それはそう?」
神々の迷宮は人類が攻略したことがないダンジョンである。
それをたまたまにしても攻略してしまった以上、目立たないってのは不可能か。
俺はただ暇だから色々とやってるだけなんだが……。
「三人はこの先、国王様からきっと褒美をもらえるはずだ。悪くない話だと思うんだけど」
「……そうですね。俺はあれですけど、リリーやカレンのことを思うと、悪くないかもしれません」
二人の目的は誰かの心に刻まれること。
それを成し遂げるためには、ある程度の知名度は必須である。
ともなれば、国王様に認められる。
これが一番の近道とも言えよう。
「分かった。それじゃあ決まりだね。僕は誇らしいよ、英雄の始まりを見ているみたいで」
「英雄ですか……暇人が英雄って、不思議な話ですね」
「君は自分のことを暇人だって思っているかもしれないけど、少なくとも誰かにとっての英雄だよ」
誰かにとっての英雄か。
……まあ、俺の暇つぶしが誰かにとって役に立てているってのは悪くないかもしれない。
「君は、君たちは僕にとっての英雄だよ。だから――」
言いかけた瞬間、バンと扉が開かれる。
振り返ってみると、慌てた様子の使用人がこちらに駆けてきた。
リレイ男爵に使用人が耳打ちすると、
「なんだと……!?」
「どうしたんですか?」
尋ねると、彼はごくりとつばを飲み込んで答える。
「Sランクの飛竜種が目撃されたらしい。ケネス、これは緊急事態だ」
「Sランクの飛竜種……? それってかなりやばくないですか?」
「やばい。……申し訳ないが、頼めるか?」
「任せてください。せっかくここまでしてもらっているんです。全力でお手伝いします。な、二人とも」
「もちろんよ! 残念だけど食事会は中断ね」
「やったりましょう! 誰かの役に立てるなら、いくらでも私たちは戦います!」




