表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/77

一発逆転を狙いし者たち

 遠くから響いてくる声。

 

 声質からして女性なのは間違いない。


 そして、撃つってことは相手は遠距離武器。


 少なくとも銃を持っている可能性が高い。


「俺は人間だ! 何もしない!」


 斬り倒すこともできるが、争い事は嫌いだ。


 それに人間を斬るのは俺のすることではない。


 剣を鞘に収め、両手を上げて前進する。


「リリー……多分相手は味方です」


「そうっぽいわね……ごめん、カレン。肩を貸してくれない?」


 奥から人影が見えてきた。


 二人の女性だ。


 装備はボロボロで明らかに戦闘をした後である。


 それに傷を見る限り、負けた――と考えていいだろう。


「俺はケネス、このエルドラに挑みに来た暇人だ」


「私はカレンです……で、隣にいるのがリリー」


「初めまして。どうやら人間みたいで安心したわ……いっ!」


「おい、大丈夫か?」


 カレンという人物はマシだが、リリーはかなりの傷を負っているようだ。


 腕からは赤い液体が流れ落ちている。


「大丈夫じゃないな。ちょっと待っててくれ」


 そう言って、俺はポーチからエリクサーを取り出す。


 リリーに近づき、飲むよう促した。


「エリクサー!? これ、かなり高価なものじゃない! そんなの飲めるわけ――」


「飲まないと死ぬぞ。それに俺は問題ない。こういうのは仕事柄大量に持ってたんだ」


 Sランクパーティでは強敵と挑むことは少なくない。


 そのため、いくつかのエリクサーを俺が管理していた。


 これはくすねてきた物の一つである。


「……ありがとう」


 どうにか受け取ってくれて、リリーはエリクサーを飲み干した。


 すると、すぐに傷が癒えていき、完全に止血することができた。


 さすがはエリクサーだな。高いだけある。


「すごい。エリクサーなんてもったいないから初めて飲んだわ」


「ありがとうございます! 本当に、死んじゃうかもって心配してたんです!」


「いいんだよ。気にしなくていい」


 実質盗んできたものだし。


 まあ、いきなり追放してきたんだ。これくらい許してくれるだろう。


「で、二人はどうしてこんなことになったんだ?」


 周囲を見渡して、状況を確認する素振りを見せる。


 察してくれたのだろうか、リリーがコクリと頷く。


「あたしたちは一発逆転を狙って神々の迷宮に挑んだSランクパーティ『希望の道』。第一階層の攻略は順調に進んでいたんだけど、階層主に勝てなくてこの惨状になったのよ」


「なるほど、な。でもSランクパーティならわざわざ一発逆転を狙わなくてもよくないか?」


 Sランクパーティなら依頼など、困ることは基本ないだろう。


「そういうわけにもいかないのよ。あたしたちの夢は……これじゃあ足りない」


「夢か」


 確かに神々の迷宮は夢を抱いて挑む者が多い。


 そして、夢を抱いたまま散る。


 彼女たちは帰還できただけでも奇跡だろう。


 さすがはSランクだ。


「あまり理由は聞かないけど、無理はしない方がいい。死んだら元も子もないからね。それじゃ、俺は先に行くよ」


 俺は手を振りながら、彼女たちを抜き去ると、肩を掴まれた。


 振り返ってみると、リリーが肩で息をしながら俺のことを見ていた。


「あなた……強いでしょ」


「……さぁ。どうだろう」


「あたしたちも連れて行ってくれない? お願い」


「見知らぬ人に夢を託すのか?」


 言うと、カレンは慌てた様子でリリーに駆け寄った。


「リリー……!」


 しかしリリーは制する。


「お願い。あなたしか頼れる人がいないの」


 頼れる人がいない、か。


 俺は暇だからって理由で攻略に乗り出したわけだから誰かに頼られるのはな……。


 まあいいか。たまには人助けするのも悪くないだろう。


「分かった。なら一緒に攻略しよう。夢を託されるほど偉い人間ではないが、手伝うことはできるかもしれないしな」


「本当!?」


「本当ですか!?」


 二人が興奮した様子で抱きついてきた。


 思わず仰け反ってしまうが、それほど嬉しかったのだろう。


「それじゃ、行くか。階層主は?」


「特殊個体のオーガ。属性は炎よ」


「どれくらい体力を削った?」


「あまり……多分今頃回復していると思います」


「十分だ。攻略開始としようじゃないか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ