貴族の屋敷に招待されたんだが
「俺たちを屋敷に招待したい?」
街に戻った後、突然リレイ男爵がそんなことを言った。
「ああ。この街から魔物が消えたのは君たちのおかげだ。復興は時間がかかるだろうけれど、それでもお礼がしたい」
「いやいや、そこまでしなくても」
「美味い料理も用意しよう。ぜひどうかな?」
「よし。それなら行きましょう」
俺は何よりも美味い飯を食うのが好きだ。
暇だったら何かしら無意識にご飯を口に入れているものである。
タバコとかは吸わないけど、飯は食ってしまう。
というか、タバコを吸うより何倍も健康的な暇つぶしである。
「お前らも行くよな?」
「美味しいご飯食べたい!」
「私もです! 最近まともにご飯食べていなかったですから!」
「より決まりだな! それじゃあリレイ男爵、お願いします!」
「任せてくれ。僕が案内してもいいんだが、その様子だとここまで運んでくれた御者さんがいるんじゃないか?」
「はい。それじゃあ現地集合ってことでいいですか」
「構わない。僕は先に行ってるから。待ってるよ!」
「お願いします!」
言いながら、リレイ男爵が去っていく後ろ姿を見送る。
いやー本当にいい人だな。
何より美味い飯を食わせてくれるってだけでいい人案件だ。
こう考えてみると、俺は餌付けに弱いのかもしれない。
餌付けされてしまったらころっと寝返るかもしれないな。
さすがに無いけど。
「よし。それじゃ御者さんにも報告しに行くか」
「ええ!」
「はい!」
◆
「お主ら、戻ってきたのか! 状況から分かってはおるが一応聞こう。攻略はどうじゃった!」
「もちろん成功しましたよ。しっかりぶっ飛ばしてきました」
「お見事じゃ! 恐れ入った! やはりお主らの実力は本物じゃな!」
ガハハと笑いながら、満足げに馬車の上でテンションが上がっている様子である。
「ワシは誇りじゃ。未来の英雄を運んでいると思うと、胸のドキドキが止まらない」
「ありがたいけど大丈夫ですか? ドキドキしすぎて倒れたりしません?」
「面白いジョークを言うな! ワシはまだまだ若いから大丈夫じゃ!」
ブンブンと腕を振り回しながら御者はピンピンしている。
うん、この様子だと本当に大丈夫そうだな。
マジでドキドキしすぎて倒れられたらビビるからな。
「それでなんですが、リレイ男爵の屋敷に向かいたいんです。案内ってしてもらえますか?}
「なんじゃ、リレイ男爵に何かしたのか?」
「いや、リレイ男爵からお礼がしたいと屋敷に誘われまして」
言うと、御者は目を見開いて驚く。
「な、なんと! 貴族からお呼ばれするとは……出世したな!」
「ははは……本当ありがたい限りで」
「任せておれ! ワシが案内しよう! 乗り込むのじゃ!」
よし、許可は貰えたな。
本当に御者さんにはお世話になりっぱなしだ。
感謝してもしきれない。
俺たちは馬車に乗り込み、背もたれに体重を預ける。
やっぱり迷宮の攻略後は体力の消耗が激しいな。
「全速力じゃ!」
馬車が動き出し、頬を風が掠める。
「それにしても貴族様に呼ばれるなんて……少し緊張しますね」
「やっぱりお前らも貴族の家に呼ばれるなんて初めてか?」
「ええ。依頼を引き受けることはあったけど、呼ばれるなんてことは一度もなかったわ」
「俺もだ。依頼は受けた経験、何度もあるけど家に招かれるのは初めてだな」
外の景色を眺めながら思い出す。
本当、『龍の刻印』にいたころは苦労したなぁ。
「あの、前々から気になっていたのですがケネスさんってどこか別のパーティに在籍していたんですか?」
「あれ? 言ってなかったけ?」
「聞いてないわ」
そうだったか。
全く気にしていなかったらな。
「参加してたぞ。一応Sランクパーティに」
「嘘ぉ!? え、でもじゃあなんで今は一人でウロウロしていたの?」
「そりゃ追放されたからだ」
「ええ!? ケネスを追放するパーティって一体どんな頭してるんですか!?」
「そうそう!」
どんな頭って……カレン、お前そこまで毒舌だったか?
まあ確かにあいつらには不満はあるが。
「向こうはどうやら俺がいなくても大丈夫らしいぞ。愛の力とやらで乗り越えるらしい」
「愛の力って……なにそれ笑えるんだけど」
「ぷふふ……すみません。ちょっとおかしくて」
「超笑えるだろ。俺も何かのジョークかと思ったわ」
今でも思い出すだけで笑える。
あいつらは今元気にしてっかな。
俺が何もかもやってた依頼の整理とか調整、全く引き継いでなかったけどトラブってないかな。
てか、引き継ぐ猶予なんて与えられてなかったし。
まあ愛の力とやらで乗り越えているのだろう。
知らんが。
「世の中馬鹿もいるものねぇ」
「ですね」
「ははは。まあ彼らにとっての正解がそれだったんじゃね」
ほんと、あいつら今どうなってんだろうな。




