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貴族様に土下座されたんだが

「今回も無事、帰還できてよかったな」



「ええそうね。本当、何もかもケネスのおかげよ」



「そうです! ケネスがいなかったら、私たちどこかで死んでたでしょうし!」



「そこまでか? 俺はただの暇人だし、俺がいなくてもお前らは普通に攻略してそうだけどな」



 適当な返事をすると、二人は目の前にやってきて全力で首を横に振った。



「それはない!」



「ですです」



「そっかなぁー。まあ頼られるのは悪い気はしねえけど」



 俺は別にそこまで強いってわけじゃないと思う。


 ただ暇人で、ただ運がいいだけの男だ。


 自分はこれまでそういう認識でいたし、そういった感覚で生きてきた。


 ギルドから個人に対してSランクの称号をもらった時も、「運よかったんだな」って思ったわけだし。


 まあそれと同時に「Sランクパーティに所属してるのに意味あるのか?」なんて思ったけど。


 ともあれありがたいことには変わりないから嬉しく思っているが。



「そろそろ街が見えてくるな」



 俺たちはリレイ男爵領郊外の街まで戻ってきていた。


 相変わらず街はボロボロだ。


 けれど、以前と違うのは魔物が近辺に出現していないということ。


 神々の迷宮が攻略された影響だろう。


 ふと、不思議そうに周辺を歩いている男が目に留まる。



「あ、リレイ男爵さんだ」



 ここを治めている領主の姿だった。


 俺がのんびり彼の下へ歩いていると、目が合う。



「君は……本当に生きて帰ってきたのか? 生きているよな、幽霊だったりしないよな」



「生きてますよ。ほら、全然元気です」



「聞いてくれ。ここ周辺に出現していた魔物が一切いなくなったんだ。おかしい、君が神々の迷宮に挑むまでは荒らし放題やっていたのに」



 と、そこまで言ってリレイ男爵が目を見開く。


 俺の方を見て、まさかと声を上げた。



「もしかして攻略したのか? あの――神々の迷宮を!」



「はい。俺たちが攻略してきました。もうこの街は安全なはずですよ」



「嘘だ……嘘だろ……」



 信じられないといった表情を浮かべながら後ずさりする。


 顎に手を当ててむむむと唸る。



「信じられない。そんな、神々の迷宮が人間の手によって攻略されるだと? ありえない、ありえない」



「あー、それじゃあ行きます? 時計台の方に」



 今の時計台は完全に安全といえる。


 もし魔物が出ても低ランクだろうし、すぐ倒せば済む話だ。


 それに貴族は魔法に長けている。


 万が一のことがあってもこの人ならある程度のことなら大丈夫だろう。



「領主として確かめる必要がある。連れて行ってくれ」



「だってよ。リリー、カレン、一応気をつけてな」



「分かったわ!」



「了解しました!」



 ということで、俺たちは再度森の中に入っていた。


 相変わらずこの森は深く、一切光を通さない。


 その代わりと言ってはなんだが、以前よりかは平和になっていた。



「本当に魔物の気配がない……この辺りは数多くの魔物がいたはずなのに……」



 ぶつぶつと周囲を見渡しながらリレイ男爵は分析をしているようだった。


 さすがは貴族様だ。


 ここまで市民のことを考えているとなると、尊敬する。


 ともあれ、この人はそこまで悪い人ではないってのは分かっている。


 普通なら襲われている街の視察なんて、恐ろしくて貴族様は単独で行かないだろうしな。



「ここか……」



 時計台の場所まで来て、リレイが動いていない針を見上げる。


 拳は震えていて、恐怖は正直拭いきれていない様子だ。


 それも仕方がない。


 なんせ神々の迷宮があった場所なのだ。


 俺は暇人だから恐怖のパラメーターがぶっ飛んでる節があるが、普通の人は怖いだろう。



「本当に攻略されているのか。……確かめよう」



 リレイ男爵は意を決して扉の前に近づく。


 一呼吸置いた後、「はぁぁぁぁ!」と叫びながら扉を開いた。


 そこには、何もない。


 ただの小さな空き部屋が広がっているのみであった。



「本当にない……完全に消えているだと……」



 彼は一歩、また一歩と後退りする。


 それほど驚いたのだろうか。


 相変わらず表情は豊かで、顔面真っ青な状態で俺の方に駆け寄ってきた。




 そして、土下座した。




「は!? え、ちょっと!?」



 思わず変な声が出てしまった。


 まさか土下座されるとは思わなかったのだ。


 だって貴族様だぞ?


 俺みたいな平民に土下座するなんて話、聞いたことがない。



「申し訳ないことをしてしまった! 英雄である君たちを出会って当初、酷い扱いをしてしまった!」



「いやいや! 大丈夫ですって! あれは仕方がないことですし!」



「そうよ! あたしたちは全然気にしていないから!」



「大丈夫ですよ!」



 俺たちは慌ててフォローしようとするが、リレイ男爵は頭を上げようとしない。



「いや、僕は本当に申し訳ないことをした。謝罪させてくれ。本当にすまなかった」



「ああ……分かりました。だから顔を上げてください」



「……ありがとう。こんな僕を許してくれて」



「だから気にしないでください。とにかく今は喜びましょう。ほら、せっかく魔物が消えたんですし」



「そうだな。本当にありがとう」



 いやぁ、まさか貴族様に土下座される日が来るとは。


 暇人生活を送っていると驚くこともあるものだな。

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